成人の敗血症性ショックに対するヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンについて 〜APROCCHSS〜

Hydrocortisone plus Fludrocortisone
for Adults with Septic Shock APROCCHSS
Djillali,Annane,M.D.,andet al
N Engl J Med. 2018 Mar 1;378(9):809-818. doi: 10.1056/NEJMoa1705716.

敗血症治療におけるステロイド使用について長年論争が続いている。2018年3月にADRENAL1)、APROCCHSSの2大規模研究が同時に発表された。敗血症性ショックに対してADRENALで90日死亡を改善させなかったが、APROCCHSSでは90日死亡を改善させる結果となった。そこで今回APROCCHSSを紹介し、結果を吟味したい。当研究はフランスの34施設で行われた多施設2×2要因、2重盲検プラセボ対照群ランダム比較試験である。計画当初にはステロイド(ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン)、活性化プロテインC(drotrecoginα以下DAA)が宿主反応を調整し、敗血症性ショックの予後を改善すると仮説を立て研究を開始した。しかし、2012年にPROWESS-SHOCK試験が発表され、DAAが市場から撤退したため、ステロイドとプラセボでの2群比較に変更し、試験が継続された。対象患者は18歳以上のICU入室患者で24時間以内に敗血症性ショックと診断されたものとした。敗血症性ショックの診断基準は感染が証明され、少なくとも2つ以上の臓器障害(SOFAscore3点以上が少なくとも6時間以上)があり、昇圧剤(NAd≧0.25μg/kg/mを6時間以上)を要した患者とした。介入群にはヒドロコルチゾン50mgq6hdiv+フルドロコルチゾン50μgqdi.n.を7日間投与し、対照群のプラセボ薬は介入群と同じ外見で統一しマスキングを行った。ベースの治療は均質化のためSSCG2008に従って行った。主要評価項目は90日全死亡、副次的評価項目にはICU、院内、180日死亡、昇圧剤非使用日数、人工呼吸器離脱期間などを事前に設定した。ブロックランダム化(size8)でWEBベースの中央割り付けを行った。主解析はITTで行い、サンプルサイズは90日死亡率を45%とし、プラセボと比較し、ステロイド、DAAによるARRが10%としてα=0.05、power=95%で1群320人、合計1280人として算出した。

結果は2008年9月2日から2015年6月3日までの期間に1671人がスクリーニングされ、1241人がランダム化され群間差はほぼ同等であった。主要評価項目である90日全死亡はコルチコステロイド群43%vsプラセボ群49%(RR0.88;95%CI0.78-0.99;p=0.03)、副次的評価項目ではショック離脱を2日早め、人工呼吸期間も短縮した。副作用においては高血糖のみが介入群で多かった。

当研究は事前によく計画が練られ、ランダム化、隠蔽化、マスキングがしっかりなされ、ハードアウトカムが主要評価項目であり内的妥当性は高いと考えられる。一方リミテーションとしてDAAが試験途中に市場から撤退され研究計画に変更されたこと、4群比較の2×2の要因デザインとして開始しており、交互作用が否定出来ないこと、DAAの除外基準に出血リスクを含んでいたことによる副作用の過小評価などが挙げられる。

外的妥当性としては試験期間が7年間と非常に長く、経過のなかで標準治療が変化している可能性が高いこと、実施施設がフランス単一国であることや、NAdの平均使用量が1.14μg/kg/minと超高容量であり、SOFAscoreは平均11〜12点と非常に高く、対照群の死亡率が近年の敗血症性ショックの研究に比較し49%と非常に高く(ADRENALでは28.8%)、組み入れされた患者は1施設1年あたり6人程度と非常に稀で超重症症例でありgenerabilityに問題がある。当研究においてフルドロコルチゾンが追加されている点が最近のトレンドとは異なるが、2010年に発表されたCOIITSSstudy2)においてヒドロコルチゾンにフルドロコルチゾンを追加する効果が検証されたが、効果はみられていない。これまでの敗血症におけるステロイド研究を振り返ると研究間の異質性が非常に高いことがステロイドの有効性が一致しない理由として想定されうる。当研究からはステロイドが有効な敗血症性ショック患者は非常に重症で我々がこれまで想像していた以上に小さいポプレーションであることが推測される。

以上から敗血症診療の原則はSSCG2016と大きく変わらない。ADRENAL、APROCCHSSを考慮すると敗血症性ショックに対するステロイドの使用閾値はむしろ上がると考えられる。

1)N Engl J Med 2018; 378:797-808DOI: 10.1056/NEJMoa1705835
2)JAMA. 2010;303(4):341-348. doi:10.1001/jama.2010.2   
3)亀田集中治療でちょっとひといき https://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_19.html

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科