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心筋梗塞の患者に対する酸素投与について、日本のガイドラインはSpO2<94%に酸素投与を推奨し、アメリカ・ヨーロッパのガイドラインはSpO2<90%に酸素投与を推奨しているが、ルーチンでの酸素投与は推奨していない。また、STEMI患者に酸素8L/min投与した群の方が室内気群に比べて心筋逸脱酵素が有意に高かった先行研究(AVOID試験)がある。 
本研究は、スウェーデンの35施設で2013年4月13日から2015年12月30日に心筋梗塞疑いで受診した、SpO2>90%の患者を、1.酸素投与群(6L/mを6-12時間)、2.室内気群の2群に分け、患者と介入者を盲検化、データ解析者を盲検化した前向きRCT。Primary Outcomeを「365日後の全死亡率」、Secondary Outcomeを30日後の死亡率、30日後と365日後の心筋梗塞、心不全の再入院率とし、6629人が酸素投与群3311人と室内気群3318人に割り付けられた。

365日後の全死亡率は酸素投与群5.0%、室内気群5.1%(hazard ratio, 0.97; 95% confidence interval [CI], 0.79 to 1.21; P = 0.80)であり、有意差はなかった。また、Secondary Outcomeに関しても両群で有意差はなかった。
本研究のStrengthは6629人という大規模研究であり、初めて「1年後の全死亡率」というHard Outcomeで酸素投与の有用性を認めなかったことである。
患者と介入者が盲検化されていないことは、Secondary OutcomeにはBiasを生じうるが、365日後の全死亡率への影響は少ないと考える。
ただし、365日後の心筋梗塞の死亡率を14.4%と推定しサンプルサイズを計算しており、本研究では両群共に死亡率は約5%と解離している。推定される死亡率をさらに低くし、サンプルサイズを大きくすれば有意差が出る可能性は残る。
先行研究(AVOID試験)と本研究の結果を踏まえると、SpO2>90%の心筋梗塞疑いの患者に酸素投与の有効性は示せず、むしろ有害な可能性もある。
国家試験で「M"O"NA」と覚え酸素投与が必然と思っていた私にとって、驚きの結果であった。

Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction.
Hofmann R et al.
DETO2X-SWEDEHEART Investigators.
N Engl J Med. 2017 Sep 28;377(13):1240-1249.
doi: 10.1056/NEJMoa1706222. Epub 2017 Aug 28.

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科