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CABG(coronary artery bypass grafting)は多枝病変や左主幹部病変等の複雑な病変に対し確立された治療法である。1990年代から人工心肺装置を用いずCABG手術をするoff-pump CABG(以下Off-pump)が広く普及しはじめ、低心機能、脳梗塞既往、呼吸器疾患を有する患者には早期合併症は少ないとされてきた。しかしOn-pump/Off-pump CABG、どちらのOutcomeがすぐれているかは依然議論の的である。CORONARYは19カ国79病院4752例を対象とした観察研究であり、短期/1年後/5年後複合有害事象には有意なく、出血再開胸、AKI、呼吸器合併症はoff-PUMPで少ないが、早期再血行再建率が高かったと報告されている。

今回のROOBY-FSの前に、ROOBYという1年後比較試験が2009年に報告されている。

アメリカ18か所の退役軍人病院、電話による割り付け、block randomization、single blind RCT、ITT解析を行ったものであり、Primary endpointは短期複合有害事象(30日内の死亡、再手術、機械的補助、心停止、昏睡、脳梗塞、腎不全)、Secondary endpointは1年後複合有害事象(死亡、再血行再建、心筋梗塞)と不完全血行再建率とした。サンプルサイズはPower80%、P値=0.05、10%フォロー脱落、Primary endpointではOn-PUMP群で8%、 Off-PUMP群でARR 40%と想定した上でN=2200と算出した。結果はOff-PUMP 1104例、On-pump 1099例にランダム化された。

理論上On-pumpよりOff-pump の方がoutcomeは良好であると想定していたが、結果はPrimary endpointの短期複合有害事象(30日内の死亡、再手術、機械的補助、心停止、昏睡、脳梗塞、腎不全)には有意差はなく、Secondary endpointの1年後複合有害事象(死亡、再血行再建、心筋梗塞)と不完全血行再建率、グラフト開存率はoff-pump群で有意に不良、COPDやDMを有するハイリスク患者でも有害事象は同等という結果であった。

今回のROOBY-FSはROOBYの5年後報告であり、方法や解析は既述したものを踏襲している。Primary endpointは全死因死亡および主要有害心血管イベント(MACE:major adverse cardiovascular events:血行再建術再施行(CABGまたは経皮的冠動脈インターベンション[PCI])、非致死的心筋梗塞、Secondary endpointは心臓死、血行再建術再施行、心筋梗塞とした。患者背景は平均年齢63歳、男性99.4%、白人84.3%、COPD 約20%、DM 約44%、高血圧 約86%、2枝以上のバイパス術が94.1%を占めていた。結果はPrimary endpointの全死因死亡およびMACEについてはOff-pumpの方がOn-pumpより有意に悪化した(15.2% vs 11.9%)。Secondary outcomeについてはいずれの項目も有意差は認めなかった。

本研究のStrengthは、退役軍人病院での研究であり大規模で5年間の追跡によるデータ喪失率が極めて低いことである。Weaknessは、性別がほぼ男性であり患者背景の特殊性が強く、またアメリカ全体の傾向としてOff-pumpを施行する率は減少しており(2016年 13.1%)、他の研究に比べ術者のOff-pumpの経験数が少ないことからよりOff-pumpに不利な結果が得られやすい可能性がある。また患者登録で除外された (N=2461 Had a surgeon who was not a participant or a coordinator who was unavailableが除外)症例が多く、術者があらかじめ施行したい術式が決まっている場合はそもそもRCTに登録をしない選択をするというバイアスがかかっている可能性が大きい。

いずれにせよOn-pump/Off-pump CABGは施設間、国の傾向で大きく修練度が異なる。On-pumpは人工心肺装置が必要でありOff-pumpよりコストがかかるように思えるが、Off-pump手技に精通するためのコストやかかる時間を考慮すると、少なくともOff-pumpでの良好なOutcomeが得られなければ今後もOff-pumpを支持していくことは難しい。

本邦は60%の症例でOff-pumpを施行している世界的な動向とはやや異なる傾向があるため、本邦での長期予後の報告も待たれる。

Five-Year Outcomes after On-Pump and Off-Pump Coronary-Artery Bypass
Shroyer AL, et al.
NEJM Med. 2017 Aug 17;377(7):623-632.
DOI: 10.1056

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科