1時間後の代替として30分後に心筋梗塞を迅速に除外できるか:RACING-MIコホート研究

Journal Title
Rapid Rule-Out of Myocardial Infarction After 30 Minutes as an Alternative to 1 Hour: The RACING-MI Cohort Study

論文の要約
【目的】
胸痛は救急診療で入院する患者の中で最も多い主訴の一つであるが、胸痛を訴えた患者のうち、心筋梗塞と診断されたのは10人に1人である。2015年ヨーロッパ心臓協会(European Society of Cardiology;ESC)のガイドラインにおいて、Non ST segment elevation myocardial infarction(NSTEMI)のrule in / rule outのための診断アルゴリズムとして、0h/1hアルゴリズムが初めて導入され、以降多くのコホート研究が行われたが、1時間より短縮したアルゴリズムは検討されてこなかった。今回、high-sensitivity cardiac troponin(hs-cTn)アルゴリズムを使用して、30分で心筋梗塞を安全に除外できると仮定し、0h/30minアルゴリズムを開発・検証し、高感度トロポニンI(hs-TnI)の0h/1hアルゴリズムと比較することを目的とした。

【方法】本研究は、デンマークで行われた単施設前向きコホート研究である。2016年11月〜2019年2月にデンマークのランダース地域病院において、心筋梗塞を疑う胸痛を呈した患者を対象とし、除外項目として、18歳未満、救急搬送時ST上昇を認めたもの、妊婦、透析を要する腎不全、インフォームドコンセントが得られない患者、心筋梗塞の経過観察を中断した患者、連続血液サンプルの結果が不完全である患者とした. 心筋梗塞の最終診断は第4版ユニバーサル定義を用いて2人の医師が独立して診断し、hs-TnIの測定はADVIA Centaur High Sensitivity Troponin I assay(TNIHassay)を用いて、救急外来到着直後(0時間), 0時間の採血の30分後, 1時間後, 3時間後に測定した。主要評価項目は心筋梗塞を除外する感度、陰性的中率、副次評価項目は心筋梗塞を診断する特異度、陽性的中率とした。0時間におけるトロポニンの閾値は過去の研究に値を使用し、30分の時点のrule-in/rule-outのカットオフ値はROCカーブを用いて決定した。Rule-outのカットオフ値は陰性的中率が99%以上となるように設定し、rule-inのカットオフ値は分類・回帰木を用いて決定した。

【結果】
1003名が対象となり、500名をDerivation cohort、503名をValidation cohortに分け、さらにトロポニン初回値と変化量からRULE-OUTE ZONE[0h<3ng/l or 0h<6ng/l+Δ30min<4ng/l (Δ1h<6ng/l)], OBSERVATIONAL ZONE, RULE-IN ZONE[0h≧120ng/l orΔ30min≧7ng/l(Δ1h≧12ng/l)]に分類された。心筋梗塞を除外する感度と陰性的中率、診断する特異度と陽性的中率をそれぞれ比較すると、0h/30minアルゴリズムでは感度100%(95%CI 92.0-100%)、陰性的中率100%(95% CI:98.5%-100%)、特異度96.7%(95%CI 94.7-98.2%)、陽性的中率72.2%(95%CI 58.4%-83.5%)だった。0h/1hアルゴリズムでは感度100%(95% CI 92.0-100%)、陰性的中率100%(95%CI 98.5%-100%)、特異度97.2%(95%CI 95.2%-98.5%), 陽性的中率75.5%(95%CI 61.7%-86.2%)だった。

【結論】
0h/30minアルゴリズムは0/1hアルゴリズムと比較し同等の精度で心筋梗塞を除外/診断できる。

【Implication】
本研究は、好感度トロポニン(TNIHassay)を用いて新しい0h/30minアルゴリズムを開発・検証し、0h/1hアルゴリズムと比較した最初の研究である. 0/30minアルゴリズムは高い感度と陰性的中率を維持しながら、0h/1hアルゴリズムと同様にderivationおよびvalidation コホートともに約半数を安全に除外することができた。本研究は、アウトカムが30日後の心血管イベントの有無などではなく、症状とトロポニンを用いたreference standardが用いられているため必然的に診断精度が高くなる。また、本研究はデンマークにおける単施設前向きコホート研究で、外的検証が同施設の分割サンプルを用いているため臨床応用するにはさらなる外的検証が必要である。

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文責:冨松真帆・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科