急性肝不全患者における、一過性でない持続的な急性腎傷害と、無移植での生存率との関連:多施設コホート研究

Journal Title
Persistent But Not Transient Acute Kidney Injury Was Associated With Lower Transplant-Free Survival in Patients With Acute Liver Failure:A Multicenter Cohort Study

論文の要約
【目的】
急性肝不全(Acute Liver Failure :ALF)患者において、急性腎傷害(Acute Kidney Injury :AKI)の合併は予後不良との関連が示唆されている。重症患者では、AKI発症から48〜72時間以内にAKIが完全かつ持続的に回復することは、AKIの持続時間が長い場合よりも良好な転帰と関連が示唆されている。しかし、ALF患者に関するデータは乏しい。そこで、本研究はAFL患者における、持続性AKI・一過性AKIとアウトカムとの関連を評価した。

【方法】
本研究は、米国で行われた多施設共同後ろ向きコホート研究である。1998年から2016年に米国ALF研究グループのレジストリに登録された18歳以上、ALFの患者を対象とし、追跡期間が3日未満の患者、3日目に腎機能評価がない患者、肝硬変を有する患者は除外した。AKIはKidney Disease Improving Global Outcomes(K DI GO)ガイドラインで定義した。腎臓の回復は、3日目に評価し、48時間以内にAKIでない状態に戻った場合を一過性AKI、回復が観察されない場合もしくは腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)を行っている場合を持続性AKIと定義した。主要アウトカムは21日時点の無移植での生存割合(transplant-free survival:TFS)とし、副次的アウトカムは21日目までの肝移植( liver transplant:LT)の有無とした。欠測値は全体の4.4%であり、代入法は行わなかった。転帰との関連はロジスティック回帰で検討した。調整する共変量は以下から選択した[臨床的関連性やp<0.10に基づいて、年齢、性別、人種(白人対その他)、病因(アセトアミノフェン関連対その他)、HE(Hepatic encephalopathy:HE)(グレード3-4対グレード1-2)、侵襲的人工呼吸(invasive mechanical ventilation:IMV) 、Vasopressor、RRT、Platelate、INR、ビリルビン、ALT、NH3、カリウム、pH、乳酸、model for end-stage liver disease:MELD、3日目の腎機能、登録年(≧2008対<2008)]。そして、以下の共変量に関しては多重共線性を評価した(AKI病期、RRT、クレアチニン、pH、カリウムと3日目の腎機能回復、ビリルビン、ALT、NH3、乳酸とINR、MELDと3日目の腎機能回復とINR)。最終的なモデルは,最も低い p 値に基づくstepwise back- ward elimination processを用いて導き出した。モデルの識別能はC-統計量(95%信頼区間)で評価し,内部検証はbootstrapping(1,000サンプル)によって検証した。統計的有意性の閾値はα=0.05(両側)とした。

【結果】
2050人のALF患者のうちeligibilityチェックの結果、1,071人が登録された。339人(31.7%)は男性で、年齢中央値(四分位範囲)は39歳(29〜51歳)であった。アセトアミノフェン関連ALFは497例(46.4%)であった。1日目に、485人(45.3%)がグレード3-4の肝性脳症、500人(46.7%)がIMV、197人(18.4%)がVasopressor、221人(20.6%)がRRTを受けた。1日目に、673人(62.8%)がAKIと診断された。3日目には、72人(6.7%)が一過性のAKI、601人(56.1%)が持続性のAKI、71人(6.6%)が遅発性のAKI、327人(30.5%)がAKIと診断されなかった。
21日の時点で213/1065(20%)が緊急LTを受け、LTを受けていない生存者は475/992(66.5%)、全体の生存割合は642/996(66.5%)だった。交絡因子(年齢、性別、人種、病因、HEグレード、IMVおよびVasopressorの使用、国際標準化比、登録年)調整後の持続性AKI(aOR[95%CI]0.62[0.44-0.88])または遅発性AKI(aOR[95%CI]0.48[0.26-0.89]) が低いTFSと関連していたが、一過性AKIは関連がみられなかった(aOR[95%CI]1.89[0.99-3.64])。

【結論】
ALF患者の多施設共同研究において、持続性のAKIが、短期TFSの低下と独立して関連していた。

Implication
本研究はA L F患者における、腎機能の回復の経過と無移植での生存割合との関連を調べた研究である。本研究の強みとして、希少疾患である急性肝不全の患者において米国だけではあるが、多施設によるレジストリへの登録で症例が多い点で強みである。弱みとしては、(1)初日と3日目までの腎機能評価を行っているもののみ選択されているため、生存者バイアスがあること、(2)AKIの発症時期やもともとの腎機能の情報がないため一過性と持続性AKIの境界が不明確である点、(3)Primary outcomeをTFSとしているが、LTを早期に受け長期生存が可能となるもの、LTを受けられえず21日以降に死ぬものを考えても、TFSが患者中心のアウトカムとは言えない点、(4)多変量解析での変数選択にstep-down法が用いられているため、関連が過剰に報告されうる点である。(5)移植臓器の入手のしやすさなどの違いは国ごとに大きくことなるため外的妥当性に問題がある。以上から後方視研究において、時間経過を含む変数を設定することには(1)、(2)の限界があるため、本研究の臨床疑問を解決することは難しいと考える。

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文責:名和宏樹/南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科