外傷患者予後予測としてのトラウマベイにおけるETCO2測定

JournalTitle
Low initial in-hospital end-tidal carbon dioxide predicts poor patient outcomes and is a useful trauma bay adjunct

■イントロダクション
背景
全身の臓器灌流を評価する試みは半世紀以上、集中治療/外傷領域で課題となっている。現在は指標としてバイタルサインや酸塩基平衡、乳酸値などが用いられているが、ショックをリアルタイムかつ高感度で評価することは依然困難である。低exhaled carbon dioxide via end-tidal capnography (ETCO2)は主にプレホスピタルでの利用に関して、死亡やショックと相関することが知られている。本研究では、挿管されていない外傷患者において、病院到着時のETCO2と患者転帰の関係を調べた。

■方法
スタディデザイン
本研究はレベル1の単施設で行われた後ろ向き観察研究である。16歳以上の成人で、トラウマベイでETCO2が測定(鼻カヌラの側管)され、かつTrauma activationが起動されたか外傷レジストリに登録された患者が対象となった。除外基準はETCO2の測定前に挿管された、もしくはETCO2がエラーとなった症例である。主要評価項目は病院到着後24時間以内の輸血、副次評価項目は入院期間、死亡、Intensive care unit(ICU)入室、入院合併症(肺炎、敗血症、創部感染、アルコール離脱、肺塞栓症/深部静脈血栓症、呼吸不全、尿路感染)、挿管、退院時転機である。ETCO2の値で患者は2分化され、本研究のデータから主要評価項目に対する特異度と感度を最大になるようLiu法で求められた29.5mmHgよりも値が低い患者を低ETCO2群、高い患者を正常/高ETCO2群とした。
統計解析
未調整・多変量ロジスティック回帰および線形回帰を用いてETCO2値と以下の項目との関連を評価した;輸血、入院、人工呼吸の必要性、手術の必要性、ICU入室期間、入院合併症、悪い退院転機(看護施設,長期介護施設,リハビリ,ホスピスへの退院など)、入院期間。 頭部外傷の有無による低ETCO2の転機に関しても評価した。また輸血の予測ツールとしてのETCO2とshock indexも比較・評価され、それぞれで感度、特異度、Area under the receiver operating curve(AUC)を計算した。年齢、性別、人種、重症度などの変数調整も併せて計算した。統計有意をp<0.05と定義し、低ETCO2群で10%、normal ETCO2群で5%の患者に輸血が必要になると推定、相対サンプルサイズ1対1、α=0.05、検出力=少なくとも0.8とした。すべての解析はStata v17を使用した。

■結果
52名が除外され955名が解析された。病院到着から測定までの中央値は4分(IQR3-6分)であった。493名(51.6%)が入院し、そのうち241名が低ETCO2群に分類された。低ETCO2群と正常/高ETCO2群でのETCO2中央値はそれぞれ22mmHg(IQR19-26)、35mmHg(IQR33-38)であった。患者特性は年齢が不均衡となり低ETCO2群で53歳、正常/高ETCO2群で45.5であった。その他の特性に関して統計学的には均一であった。
主要評価項目(24時間以内の輸血)は低ETCO2群で12%、正常/高ETCO2群で3.6%、調整オッズ比4.65(95% CI 2.01-10.72)であった。副次評価項目に関しても低ETCO2群で一貫して多い・悪い結果となった。低ETCO2群での頭部外傷の有無による層別化に関しては、頭部外傷の有無で殆どの評価項目の発生に差は見られなかった。輸血予測に関するETCO2とshock indexの比較に関してはETCO2≦29.5mmHgで感度76.3%、特異度58.9%、AUC67.6%であり、shock index≧1ではそれぞれ21.1%, 95.4%, 58.2%であった。

■Implication
著者らは、本研究に登録された外傷患者においてETCO2≦29.5mmHg を境界値としたところ、これを下回る群で輸血を始めとした死亡・挿管・入院合併症などの不良転帰が多かったと報告した。ETCO2は、非侵襲的・簡便・リアルタイムに測定でき・すでに多くの施設にもあるため利用しやすい点が強みである。しかし、外傷患者におけるETCO2の値は、頭部外傷のみならず、肺疾患を含む基礎疾患・胸部外傷・・病院前の薬剤/輸血・処置・疼痛などの多くの要因に影響を受ける値であり、連続変数のなかから最適な1点の閾値を決定することは困難であることが予想される。更に、本研究においては、解析データを利用して、その閾値を決定しているため過剰適合が無視できない。また、アウトカムに関してはoccult shockの代替エンドポイントを用いているが、この変数も病院前の輸血、手術方針などの影響を受けるため妥当性に懸念がある。本研究は、臨床予測研究であり、外傷患者におけるETCO2の予後予測能を検証している研究であるが、結果において、検査の予測能ではなく、調整不十分な多変量解析の結果である、アウトカムとの関連を示唆するオッズ比やP値が強調された形で報告されていることは不適切であると考える。本研究はlevel1トラウマセンターでトラウマアクティベーションが発動した患者もしくは外傷データ登録基準を満たした患者が対象であるため選択バイアスの懸念や外的妥当性に問題がある。何かしらの関連を示すには、少なくとも、他のデータセットで、同じ閾値を用いた外的検証が必要である。

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文責 高橋盛仁/南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科