SARS-CoV-2肺炎患者の1年間の放射線学的、機能的、QoLアウトカム−前向き観察研究

Journal Title
1-year radiological, functional and quality-of-life outcomes in patients with SARS-CoV-2 pneumonia - A prospective observational study
NPJ Prim Care Respir Med 2022; 32: 8. PMID: 35241685

論文の要約
【目的】SARS-CoV-2は、2019年12月に中国武漢で1例目が報告され、2020年、WHOによるパンデミック宣言がなされた。COVID-19発症から6ヶ月まで (mid-term) の期間で呼吸機能、胸部画像、QoL低下が残存するとの報告がなされてきた。また、1年時点で生理学的・画像的変化が残存する可能性を示唆するsubgroup解析の報告があり、本研究グループも3ヶ月時点で呼吸機能・画像的変化、QoL低下が見られると報告していた。本研究では、SARS-CoV-2感染後、1年時点 (long-term) の画像的・機能的変化を探るため、1年間患者の追跡を行った。

【方法】本研究は南スイスの単施設で行われた前向き縦断観察研究である。2020年3月1日〜4月15日の期間で、PCR陽性、超低線量CTで異常所見があった患者を対象とした。18歳未満であること、妊娠、同意が得られない場合はexclusionとした。初診時、3ヶ月時点、1年時点で超低線量CTがフォローされ、共著者の2人の放射線科医で、臨床データは盲検化された上でそれぞれ独立してスコアリング (肺葉ごとに病変範囲に応じて0〜5点でスコアリング、計0〜25点) された。また、3ヶ月時点、1年時点で呼吸機能検査、6分歩行試験 (歩けた距離、距離に関して同条件の患者と比較した%、最低SpO2) 、QoLスコア (St. George's Respiratory Questionnaire; SGRQ、Short Form Survey-12; SF-12) をフォローした。
統計学的解析については、定量的データは平均値±標準偏差(SD)、または中央値と四分位範囲 (interquartile range; IQR)で報告され、定性的データは絶対値とそれに対応するパーセンテージでまとめられた。2時点のアウトカム変数の比較においては、正規分布する変数には対応のあるt検定、非正規分布する変数にはWilcoxonの符号順位検定を用い、3時点の比較には、正規分布し分散均一性がある場合はANOVA (分散分析) を、ない場合はFriedman検定を用いた。P<0.05の場合post-hoc解析も行われた。2時点の2区分変数の比較にはMcNemer検定を用いた。また、結果の評価には全て両側検定が用いられている。

【結果】39人の患者が対象となり、3ヶ月フォロー時点まではフォローロスはなかったが、1年時点では1人のフォローロスが生じた (理由については記載なし) 。CTスコアは継続的に減少 (初診時12.9±4.5点、3ヶ月時点8.6±4.3点、1年時点5.5±3.9点) したが、一方で3ヶ月時点でCTで異常所見がみられた人の96.8% (30人/31人) は、1年時点でもCTでの異常が残存した。呼吸機能は、3ヶ月時点と1年時点で比較し20人/25人に異常の残存がみられた (呼吸機能異常64.1→52.6%、P=0.36) 。6分歩行試験においては、3ヶ月時点と1年時点で比較し最低SpO2の改善がみられた (中央値92%、IQR 90-94%→中央値93%、IQR 92-94%) 。QoLに関しては、SGRQスコア異常は1年時点でも19人/38人 (50%) にみられ、SF-12スコア異常は身体面で12人/38人 (31.6%) 、精神面で11人/38人 (28.9%) に見られた。

【結論】SARS-CoV-2感染者は持続的な改善を辿るにも関わらず、感染後1年時点でも画像的・機能的変化が残存していた。

Implication
本研究はCOVID-19の長期的経過を記述した重要な研究である。本研究の強みとして、発症後1年後までの長期にCTも含め追跡できている点、フォローロスも1人のみで、当初予定した情報の収集に漏れがない点が強みである。弱みとしては、単施設研究でサンプルが少なく、標準治療を行なっていない (ステロイド投与していない) 患者が2人いる点や、無症状患者は入っていない点、ICU入室患者が少ない点で選択バイアスが避けられず、一般化可能性にも問題がある。胸部CTの評価方法において、もとものベースの肺疾患の異常はカウントしていないとしているが、発症前のCT所見がないためその影響は無視出来ない。さらに、解析方法も各時点での合計点として3時点が比較されているため、上記影響を調整出来ていない。一般的に本研究のような長期フォローにおいて繰り返しCTでの評価を要する研究では、欠測が多くなり、追跡が困難であることが予想され、生存バイアスのリスクが高い。そのため、今後の研究では、多施設でサンプルを多くし、患者にインセンティブを与えるクーポンを発行するなどの欠測が出ない工夫、事後にmultiple imputationなどの統計学的に欠測を補うデザインが採用されることが望ましい。また、解析自体も個人単位を繰り返し観察することに適した混合効果モデルが適切と考える。

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文責:芥川晃也/南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科