院外心停止後蘇生後患者の予後予測における乳酸/アルブミン比の役割

Journal Title
The role of the lactate/albumin ratio in predicting survival outcomes in patients resuscitated after out-of-hospital cardiac arrest: A preliminary report.

論文の要約
背景: 血清アルブミン値は重症患者の死亡率および罹患率と関連する. 血清乳酸値は、組織灌流の間接的な指標であり、院外心停止(Out-of-hospital cardiac arrest;OHCA)で蘇生した患者の場合、乳酸値が高いほど予後が悪いことが過去の研究で示されている。乳酸/アルブミン(Lactate/Albumin;L/A)比が高いことは、重症敗血症患者の多臓器不全および死亡率と関連することが示唆されており、予後判定マーカーとして利用できる可能性がある。心停止後症候群 (post -cardiac arrest syndrome;PCAS)は、敗血症と血管内容積欠損、血管拡張、内皮障害、微小循環障害など、多くの共通点があり、OHCA患者においても、L/A比は予後因子となる可能性がある。本研究では、OHCA患者において、L/A比が乳酸値やアルブミン値単独よりも優れた予後予測マーカーであるかどうかを検証した。

方法: 2018年1月1日から2020年12月30日の間にOHCAでトルコの三次救急医療機関(アスカレイ大学医学部付属病院救急部)に入院し、自己心拍再開(Return of spontaneous circulation;ROSC)が得られた18歳以上の患者データを前向きに収集し、後方視的に解析した単施設研究。対象は、OHCAのため救急隊(emergency medical service;EMS)により心肺蘇生が行われ、その後、同病院に搬送されたものされた。18歳未満の患者,他院からの転院患者,外傷,中毒,神経症の既往,血清アルブミン値や乳酸値が不明,末期疾患の診断を受けた患者,一人暮らしやホームレスの患者を除外した。主要評価項目は退院までの生存割合とした。単変量および多変量ロジスティック回帰分析を用いて、臨床変数と退院までの生存割合との関連を調べ、オッズ比(OR)およびその95%信頼区間(CI)も計算した。単変量ロジスティック回帰分析でp値<0.05の変数のみ、多変量解析を行った。

結果: 基準を満たした235名のOHCA患者を対象とした。このうち、退院まで生存した患者は42人(17.9%)であった。患者の平均年齢は67±12歳で、59.1%(n = 139)が男性であった。院内死亡は193人(82.1%)であった。乳酸値の中央値は,非生存群で生存群より有意に高く(7.3 mmol/L(5.4-9.7),5.1 mmol/L(4.0-7.6);p<0.001), アルブミン値は非生存群で生存群より有意に低かった(3.5 g/dL(3.1-3.9),3.8 g/dL(3.4-4.1),p<0.001).L/A比は非生存者群で生存者群より有意に高かった(それぞれ2.0(1.4-2.8)、1.4(0.9-1.9);p < 0.001)。多変量ロジスティック回帰分析では,退院までの生存割合に対する L/A 比 1.62 未満の OR は 2.55(95% CI, 3.24-11.08)であった。その他、年齢(OR:0.96、95%CI:0.82-0.99)、公共の場所(OR:1.68、95%CI:1.24-5.93)、病院前の除細動(OR:2.43、95%CI:1.68-3.55)およびROSCまでの時間(OR:0.96、95%CI:0.94-0.98)に関連することが示された。L/A比のthe are under the curve valueは0.823、乳酸のそれは0.762、アルブミンのそれは0.722だった。

Implication
L/A比は、過去の敗血症・院外心停止で検証された結果と同様に乳酸値、アルブミン値単独よりL/A比という組み合わせが予後予測能として高いことが示された。本研究は過去の研究の検証なのか、予測モデルの開発なのか明記されていないことで、目的が明確でない。
開発が目的であるなら、結果からはL/A比以外にも生存と関連する因子があり、それらを掛け合わせることでより精度が高い予測モデルを作ることができる可能性がある。検証であるなら報告されたカットオフ値は本研究データを使用しているため、過剰適合の問題がある。また、対象患者からどの程度除外されたか不明である点、サンプルサイズが小さく、医療アクセスのいい都市で行われた単施設の観察研究であり、選択バイアスや一般可可能性に問題がありうる。アウトカムは、生死のみであり、Quality of Lifeと関連しないため患者中心アウトカムとは言えない。以上からL/A比は簡便に測定可能である一方、仮に生死の予測精度は各因子単独よりはよいと言えたとしても、臨床に応用するには不十分と考える。

post325.jpg

文責 中村祐太・南三郎


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科