心房細動患者における主要な虚血・出血イベントに対するリバーロキサバンとアピキサバンの比較

Journal Title
Association of Rivaroxaban vs Apixaban With Major Ischemic or Hemorrhagic Events in Patients With Atrial Fibrillation (心房細動患者における主要な虚血・出血イベントに対するリバーロキサバンとアピキサバンの比較)

Background
米国では推定で300〜600万人が心房細動に罹患しており, 2050年までに600万〜1600万人まで増加すると予測されている. 米国で使用許可されている4つのDOAC(direct oral anticoagulants)のうち, リバーロキサバンとアピキサバンが処方のほぼ全てを占めており, ワルファリンよりも頻繁に処方されている. これら薬剤の半減期の違いからリバーロキサバンが1日2回内服、アピキサバンが1日1回内服で血中濃度に違いがあり、効果や安全性に違いがある可能性がある。しかし、これまでの先行研究はDOAC同士を直接比較した研究はなく、DOACとワルファリンの比較した研究から間接的に比較するしかなかった。

Method
2013年1月1日〜2018年11月30日の期間、65歳以上のメディケア加入者のコンピュータ登録および医療費請求の情報を用いた後ろ向きコホート試験である。適格基準として, 前年度にメディケアに継続して加入し, 定期的に医療機関に通院し, 1回以上の外来受診と処方(研究の抗凝固薬以外)があること, 末期疾患や長期介護施設滞在, 僧帽弁狭窄症, 慢性腎不全(stage4/5/末期)を有していない, 肺塞栓症/深部静脈血栓症などの代替的な抗凝固薬の適応疾患がない, 過去90日以内に心房細動/心房粗動の診断を受けている, 経口抗凝固薬の新規使用者であること, 等が含まれた。対象患者は最長4年間フォローされた。主要アウトカムは, 主要な虚血性イベント(脳梗塞/全身性塞栓症)と出血性イベント(脳出血/他の頭蓋内出血/致死的頭蓋外出血)の複合アウトカムとして設定された。 また副次的アウトカムとして, 非致死的頭蓋外出血と総死亡が設定された。アウトカムの比較は、208の共変量を用いてIPTW(inverse probability of treatment weighting)により補正した。

Result
コホートには新規に経口抗凝固薬を開始した心房細動患者(581451人)が含まれ, リバーロキサバン群(227572人), アピキサバン群(353879人)であった。(2078642人の患者から開始し, 適格基準を満たす患者として581451人が残った。) 患者の平均年齢は77歳で, 291966人[50.2%]が女性であり, 134393人[23.1%]が抗凝固薬の減量投与を受けた。 フォローアップ期間は474605人年であり, 平均日数は174[62-397]日であった。 補正後の主要アウトカムは, 16.1/1000人年(リバーロキサバン群) vs 13.4/1000人年(アピキサバン群)(RD 2.7[95%CI 1.9-3.5]; HR 1.18[95%CI 1.12-1.24])であった。リバーロキサバン群では主要な虚血性イベント(8.6 vs 7.6/1000人年; RD 1.1[95%CI 0.5-1.7]; HR 1.12[95%CI 1.04-1.20])と出血性イベント(7.5 vs 5.9/1000人年; RD 1.6[95%CI 1.1-2.1]; HR 1.26[95%CI 1.16-1.36])の両方が増加し, 致死的頭蓋外出血(1.4 vs 1.0/1000人年; RD 0.4[95%CI 0.2-0.7]; HR 1.41[95%CI 1.18-1.70])が含まれた。
副次的アウトカムである非致死的頭蓋外出血(39.7 vs 18.5/1000人年; RD 21.1[95%CI 20.0-22.3]; HR 2.07[95%CI 1.99-2.15])や総死亡(44.2 vs 41.0/1000人年; RD 3.1[95%CI 1.8-4.5]; HR 1.06[95%CI 1.02-1.09])もリバーロキサバン群で増加した。またリバーロキサバン群において, 標準用量(13.2 vs 11.4/1000人年; RD 1.8[95%CI 1.0-2.6]; HR 1.13[95%CI 1.06-1.21])と減量用量(27.4 vs 21.0/1000人年; RD 6.4[95%CI 4.1-8.7]; HR 1.28[95%CI 1.16-1.40])の両方で主要アウトカムのリスクが増加した。

Conclusion
65歳以上でメディケア受給者の心房細動患者において, リバーロキサバンはアピキサバンに比べて主要な虚血または出血性イベントのリスク増加と関連した。

Implication
本研究は米国の保険データベースリアルワールドデータを利用した研究で、多くの変数が傾向スコアに投入された。Target trial emulationを意識し考察する。対象者は、設定した期間のなかで医療機関に定期的に通院している人の中からの心房細動と診断され、治療開始されたものが選ばれており、治療割付とタイムゼロが一致している。アウトカムは複合アウトカムにすることでイベントの競合リスクが軽減されている。しかし、アウトカムがないものは除外されているため真の対象者選択が治療割り付けのあとになされているため、治療中断者が除外されるなど選択バイアスが懸念される。また、保険データベースに記録されないアドヒアランスなどの未測定の交絡は調整されていないなどの問題がある。 しかしこれまで行われてきた研究より大規模であり, IPTWによって共変量がコントロールされ, 修正後の標準化差が0.10未満であること, また様々な感度分析が行われ、極端な傾向スコアを持つ患者を除外したり, フォローアップ期間を1年に限定する等の修正を行ってもHRやRDの推定値が実質的にはほとんど変化しなかったことなどから, 本研究の結果の頑健性は高いと考えられる。重要な結果であるに違いないが、観察研究の限界から今後はさらなる洗練された観察研究やランダム化比較試験などの検証が期待される。

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文責 田中黎・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科