広範囲の急性期脳梗塞における血管内治療

Journal Title
Endovascular Therapy for Acute Stroke with a Large Ischemic Region

論文の要約
背景:血管内治療は、急性期脳梗塞治療の標準治療となってきたが、虚血領域が広範囲に及ぶ急性期脳梗塞の治療としての血管内治療は行われないことが多い。しかし広範囲の脳梗塞における治療について、内科的治療のみと血管内治療を併用した場合との効果の比較は未だ研究されていなかった。

方法:日本で行われた多施設、非盲検化ランダム化臨床試験で、脳の主幹動脈閉塞がありASPECTS(Alberta Stroke Program Early Computed Tomographic Score)スコア3から5点の脳梗塞患者を対象とした。最終健在時刻から6時間以内もしくはFLAIR画像にて変化がない場合は最終健在時刻から24時間以内に血管内治療と内科的治療を併用する群(血管内治療群)と内科的治療のみの群(内科的治療群)に1:1にランダムに割り付けた。アルテプラーゼ(0.6mg/kg)は両群にて適応がある場合に使用された。主要評価項目は90日後のmodified Rankins Scaleが0から3点であること、副次的評価項目は90日後のmodified Rankin Scale(mRS)が改善していることや48時間でNIHSS( National Institutes of Health Stroke Scale)が8点以上改善していることなどであった。サンプルサイズは、過去の研究結果から血管内治療郡のmRS0~3の調整オッズ比が3.42(実際の効果は20%少なく見積もり2.7)とし、両側α0.05、パワー90%として各群81人とし、15%程度ドロップアウトすると仮定し、合計200人とした。解析はperprotocol解析を行い、層別化した変数での調整は行わないで比較した。また順序ロジスティック回帰を用いてmRSscaleのシフトアナリシスも行った。

結果:日本の三次救急病院45病院で行われ、203人の患者がランダム化され、101人が血管内治療群、102人が内科的治療群に割り当てられた。各群それぞれの約27%の患者がアルテプラーゼを投与された。90日後のmRSが0から3点であった患者は血管内治療群では31.0%、内科的治療群は12.7%(相対リスク2.43、95%信頼区間1.35-4.37)で血管内治療が有利であったことが示された。また血管内治療で概ねmRSの値は改善傾向であった。48時間でNIHSSが8点以上改善したのは血管内治療群で31.0%、内科的治療群で8.8%(相対リスク3.51、95%信頼区間1.76-7.00)であった。いかなる頭蓋内出血はそれぞれ58.0%、31.4%(相対リスク1.85、95%信頼区間1.33-2.58)で、NIHSS4点以上の悪化を認める症候性頭蓋内出血は血管内治療群で9.0%、内科的治療群で4.9%(相対リスク1.84、95%信頼区間0.64-5.29)であった。

Implication
デザインはしっかりしており、解析には感度分析も行われ、どの重症度においても改善傾向があることが示された。しかし、これまでの研究ではmRS≦2とされてきたが、本研究では≦3としている点や、tPAの用量も他国と比較し、本邦では低用量である点が結果に影響した可能性がある。また、何人の患者から対象患者が絞られたかが示されていないため選択バイアスや一般化可能性の評価ができない。血管内治療は48時間以内の頭蓋内出血を増加させたが、症候性出血には差がなかったと報告されたが、その後の影響については不明である。参加施設は日本の病院のみであり、この結果は日本国内の医療環境が強く影響されるため外的妥当性に問題がある。今後国際的な検証やPatient reported outcomeの報告を期待する。

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文責 相川未希・南三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科