橈骨動脈採血における局所麻酔としての10%リドカインスプレーの有用性

Journal title
10% Lidocaine spray as a local anesthetic in blood gas sampling: A randomized, double-blind, placebo-controlled study

論文の要約
・背景
橈骨動脈からの動脈血採血は全身状態の把握のために救急外来でしばしば行われるが、採血の際に疼痛を伴い、患者に不安感をもたらす。疼痛軽減目的に臨床医の判断でリドカインを使用した局所麻酔が施行されることがある。しかし、皮下注射の手技そのものが疼痛と不安感を伴う可能性があり、また皮下注射をすることで動脈の触知が困難となることもある。本研究ではリドカインスプレーを使用した非侵襲的な局所麻酔の方法を検証した。

・方法
本研究はトルコの三次医療機関で行われた単施設二重盲検化ランダム化比較試験である。選択基準は18歳から70歳の成人で血液ガス評価が必要な意識清明な患者である。介入群は橈骨動脈採血部位をポピドンヨードで消毒したのちに10%リドカインスプレーを6回噴霧し、対照群はクロルヘキシジンを6回噴霧することとした。主要評価項目は動脈血採血のVisual analog scaleで評価した疼痛とし、副次評価項目は採血中の患者の手の動きと痛みの性状(全く痛みがないを0点、圧迫感を1、鈍痛を2、鋭い痛みを3)とした。サンプルサイズは効果量を0.5、α;0.05(片側か両側かは不明)、検出力を80%、10%のデータ欠損があると仮定し、合計144人と見積もった。

・結果
2021年4月1日から4月31日の期間に277人から144人が登録された。患者特性に統計学的に有意差はみられなかった。Primary outcomeである、VASで評価した疼痛の中央値はリドカイン噴霧した介入群で1.5[interquartile(IQR:2.0]、対照群で5(IQR:2.0) p=0.000であった。また、secondary outcomeである採血時の疼痛の性状に関しては対照群では全患者で圧迫感や鈍痛や鋭い痛みなどの疼痛があったという結果になったが、介入群では圧迫感を含めて疼痛を自覚しなかった患者が22.2%(16人)という結果であった。

Implication
本研究は、動脈血採血におけるリドカインスプレーを使用した非侵襲的な局所麻酔の有効性を検証した最初の研究である。内的妥当性に関してFlow diagramではランダム化された後に除外されるはずの患者がランダム化前に除外されているなどランダム化そのものが適切に行われたか疑問が残る。サンプルサイズは、過去の似た研究では差がみられなかったが、効果量を0.5と大きく設定し不適切であり、患者特性は年齢と性別のみで評価しており、層別化もされておらず未知の交絡因子の存在が考えられる。加えて、患者と医師の盲検化は明示されているが、outcome collector、評価者、データ解析者の盲検化は明示されておらず情報バイアスの可能性がある。外的妥当性に関しては単施設かつサンプル数も少なく、また1人の臨床医が施行していること点に限界がある。さらに、サンプル数が小さく、効果量がこれまでの研究に比してだいぶ大きいことを踏まえるとさらなる検証は必須である。

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文責 竹下 学・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科