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台湾において2011年5月から2014年12月までの期間に骨盤部単純CTにて白く写る10mm未満の下部尿路結石の患者198人を対象としてプラセボ群とシロドシン8mg内服群とに分けて尿管結石の排石率を比較した単施設二重盲検RCT。
背景として尿管にはアドレナリン受容体があり、中でもα1Aは下部尿管の収縮に主に関与している事がヒト尿管の実験から分かっており、α1Dの選択的拮抗薬であるBMY7378よりもα1Aの選択的拮抗薬のシロドシンの方が尿管の収縮を抑制するのにより有効であるとする実験結果がある。
これまでの尿管結石に対するMedical Expulsive Therapy(MET)はほとんどの試験がα1A、α1Dどちらにも作用するタムスロシンにて行われおり、他施設間大規模2重盲検RCTではタムスロシンによるMETは5mm以上10mm未満の下部尿管結石に限定すれば排石率を改善はするものの、排石期間や鎮痛薬の使用量はプラセボ群と有意差を生じないというものであった。

以上より尿管のα1受容体に非選択的に作用するタムスロシンよりもα1Aに選択的に作用するシロドシンによるMETの効果が期待されて臨床試験を実施し、198人の患者が登録された。7人が患者除外基準にひっかかり、27人が治療開始前に参加を辞退。その後治療のランダム化を拒否した患者がプラセボ群、シロドシン群でそれぞれ12人と11人、研究への参加同意を取り消した患者がそれぞれ4人ずつおり、最終的にプラセボ群、シロドシン群の人数は61人と62人となった。

研究結果として排石期間はプラセボ群で9.73±2.76日でシロドシン群では6.31±2.13日であった。排石率はプラセボ群で33/61(54.1%)でシロドシン群で48/62(77.42%)、鎮痛薬ケトロラク使用量はプラセボ群で347.77±109.9mg、シロドシン群で255.97±112.48mgと有意差を認めた。その他下部尿路症状、疝痛発作頻度に有意差はなく、性別、結石の大きさにより排石率に有意な差は認めなかった。
以上よりシロドシンによるMETは5mm以上10mm未満の下部尿管結石の排石率を上昇させ、排石期間の短縮と鎮痛薬使用量の減量に有効であるとの結論が出されている。

結果だけを見るとシロドシンのMETにおける効果に期待がされる内容だが、この論文ではNew Zealand Clinical Trial Registryに登録されたPrimay outcomeが尿管結石の排石期間なのに対し、実際の論文にはPrimary outcomeを尿管結石の排石率と書いてあり、論文中の図では排石期間が一番上に来ているという矛盾があり、筆者の論理的一貫性が破綻している。
また、このデータは小規模の単施設二重盲検RCTであり、Funnel plotに従えば小規模の臨床試験では結果が大きく出やすいという欠点も抱えている。さらに、患者データの偏りとしてプラセボ群とシロドシン群との有意差は認めないものの、両群において男性の割合が女性よりも2倍以上ある事はデータの偏りにつながる。また、患者登録開始後のドロップアウトした患者数が最終的に約1/4の割合でいる事からは何らかの研究デザインの問題が推測される。

以上より、シロドシンのMETにおける排石率、排石期間、鎮痛薬使用量の減量効果については慎重に判断するべきで、今後の他施設間大規模RCTの結果が出そろうのを待ってから臨床適応を判断する事が望ましいと思われる。

Efficacy of Silodosin in Expulsive Therapy for Distal Ureteral Stones: A Randomized Double-blinded Controlled Trial.
Wang CJ et al,
Urol J. 2016 Jun 28;13(3):2666-71.

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科