ワクチン接種済の医療従事者におけるCOVID-19ブレイクスルー感染

Journal Title
Covid-19 Breakthrough Infections in Vaccinated Health Care Workers
M. Bergwerk et al. NEJM

論文の要約
背景
2020年後半から、Pfizer-BioNTech社のBNT162b2 mRNAワクチンの接種が開始された。本ワクチンは、COVID-19の無症候性感染を予防し、感染力を低下させることが示されている。しかし、ワクチン接種者のごく一部にブレイクスルー感染を生じることが世界各国で報告されてきており、その関連因子は未解明である。今回、イスラエルにおいて、BNT162b2 mRNAワクチンを2回接種後の医療従事者を対象に、ブレイクスルー感染の関連因子を調査するためにprospective cohort studyを行った。

方法
本研究は、2020年12月19日から2021年4月28日までの期間で、イスラエル最大の医療センターであるSheba Medical Centerで行われた。症例対照研究として、ブレイクスルー感染(※1)を発症した医療従事者を、同様にワクチン接種済の非感染医療従事者(※2)と、性別、年齢、ワクチン接種後の期間、免疫抑制状態があうようにマッチング(※3)し、ブレークスルー感染における関連要因を調査した。関連要因として、感染前1週間以内および1ヶ月以内それぞれにおける、中和抗体および抗S IgG抗体の力価を比較した。なお、上記の血清抗体価が検査されなかったものは除外された。RT-PCRにおいてはcycle threshold(以下Ct値※4)によって感染性を評価した。抗体価の比較には一般化推定式を利用した。
※1 ワクチン2回目を接種してから6日以内に明らかな曝露や症状がなく、11日以上経過した後のRT-PCRでSARS-CoV-2陽性になること
※2 同病院で行われていた抗体接種後の免疫反応を分析する前向き研究に参加していたもの
※3 検出力が最大となるように症例:対照=1:4 or 1:5でマッチングされた
※4 Ct値<30はウィルス量が多いことを意味し、感染性が強いことを示唆する

結果
ワクチン接種済の医療従事者1497人のうち、COVID-19ブレイクスルー感染者は39人であった。感染者の症状は、無症候もしくは軽度の症状があるのみであった。感染者のうち、感染前の中和抗体価が得られた22人が症例群として登録され、非感染者のうち104人が対照群として登録された。
感染前の中和抗体価は、症例群で192.8、対照群で533.7、症例-対照間の力価比は0.361 (95%信頼区間[CI] 0.165-0.787)であった。中和抗体価のピーク値は、症例群で152.2、対照群で1027.5、症例-対照間の力価比は0.148 (95%CI 0.040-0.548)であった。感染前のIgG抗体価は、症例群で11.2、対照群で21.8、症例-対照間の力価比は0.614 (95%CI 0.282-0.937)であった。IgG抗体価のピーク値は、症例群で16.3、対照群で32.2、症例-対照間の力価比は0.507 (95%CI 0.260-0.989)であった。
以上の結果より、症例群における中和抗体価およびIgG抗体価はどちらも、マッチングされた対照群に比べて低かった。中和抗体価の方がIgG抗体価よりも、症例-対照間の差が大きかった。さらに、RT-PCR法におけるN遺伝子のサイクル値(Ct値)に基づいた結果からは、感染前の中和抗体価が高いとCt値は高く、低い感染力に関連することが示された。

Implication
BNT162b2 mRNAワクチン接種済の医療従事者のうち、ブレイクスルー感染者では、中和抗体やIgG抗体の力価は、対照群よりも低いことが示された。また、中和抗体価が高い人ほどウイルス量は少なく、感染力が弱いことが示唆された。
本研究の内的妥当性として、検査法やブレイクスルー感染の診断基準が明示されており、正確性が担保されている。また、性別・年齢・ワクチン接種から検査までの期間・免疫状態をもとにマッチングされた対照群を選択されており、可能な範囲で交絡バイアスが軽減されている。前向きコホート研究であることから、思い出しバイアスも最小限となっている。しかし、ブレイクスルー感染の症例数自体は39例で少なかく、サーベイランス検査を実施できていないことや、感染前の抗体検査のない患者は除外されているため、症例群において無症候性感染が見逃されるなど選択バイアスが懸念される。対照群については、検査や曝露の有無ではなく、ワクチン接種済の非感染者において、血清検査時期によってのみマッチングを行っている。そのため、COVID-19曝露のリスクの違いを考慮できておらず、両群の感染予防の差が過小評価されてしまう恐れがある。
外的妥当性としては、コホートは大部分が若くて健康な医療従事者であり、症例群が限定されていることから、重症感染症や免疫抑制状態の患者におけるブレイクスルー感染との関連性まで解釈を拡大することは難しい。また、主にα変異株を対象とした研究であることから、δ変異株を含めた他の変異株に対するブレイクスルー感染の特徴を反映していない恐れがある。さらに、イスラエルに限定した研究であり、アジア人の文化的/遺伝的背景の違いを考慮する必要がある。
本試験において抗体価とブレークスルー感染の関連が示唆された。しかし、本試験はコントロールのとり方に問題があり、標準的なtest negative case control試験とはいえないデザインである。そのため、抗体価とブレークスルー感染の因果関係はさらなる検証が必要だと考える。

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文責 山田 紘理・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科