ST上昇を伴わない院外心停止蘇生後に対する冠動脈造影検査について

Journal Title
Angiography after Out-of-Hospital Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation 10.1056/NEJMoa2101909.

論文の要約
・背景
急性冠症候群は院外心停止患者の原因のおよそ60%程度占めている。院外心停止から蘇生した患者において心電図でST上昇を認める場合、即時に冠動脈造影検査を行うことが予後を改善させることが示されている。しかしST上昇を伴わない患者においては、即時に血管造影を行うことが予後を改善させるかは不明であるばかりでなく、手技に伴う合併症や他の原因に対する精査加療が遅れるといった負の側面がある。最近発表されたCOACT trial(Coronary Angiography after Cardiac Arrest without ST-Segment Elevatio)では、ST上昇は認めないが、ショッカブルリズム(心室細動、無脈性心室頻拍)であった蘇生後患者を対象として即時的血管造影群と待機的血管造影群を比較したが、90日後の生存、有効性と安全性、いずれにおいても両群間で差はみられなかった。そこで、本研究は非ST上昇患者全般に即時的血管造影が待機的血管造影と比較し予後を改善させるか検証した。

・方法
本研究は2016年11月から2019年9月の間にドイツとデンマークの31施設で行われた非盲検化多施設無作為化試験である。対象患者は蘇生に成功した院外心停止患者のうち、ST上昇を認めず、冠動脈の起因する可能性がある30歳以上の患者とした。除外基準としては、ST上昇、新規左脚ブロック波形、造影の遅延が臨床上看過出来ないと判断される致死的不整脈や心源性ショック、原因が明らかなもの、妊婦または妊娠の可能性が場合とされた。患者は、入院後、即時に冠動脈造影検査を行う群と、待機的または臨床医の判断で選択的に冠動脈造影検査(心停止後24時間以上経過した後)を行う群に1対1に無作為に分けられた。血行再建については経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を可能な限り採用したが、PCIと冠動脈バイパス術(CABG)の最終的な選択、ステントの選択などは臨床医の判断に委ねた。主要評価項目は30日後の全死亡とした。サンプルサイズ設計は先行研究から30日後死亡割合が即時的血管造影群で34%、待機的/選択的群で46%と仮定し、ハザード比0.674、検出力を80%、両側αレベルを0.05として、558人と算出した。主要解析はITT解析で行い、各施設で層別化したCoxモデルを用いてハザード比を算出し、両側ログ-ランク検定でP値を算出した。感度解析はper protocol解析で行われた。

・結果
558名の登録患者のうち554名がランダム化され、即時造影群に281例、待機的/選択的群に273例が割りつけられ、このうち530例が解析対象となった。年齢は全体の中央値が70歳、女性は30.4%を占め、冠動脈疾患の既往があるものが37.6%、初期波形がショッカブルリズムだったものが55.5%であった。主要評価項目である30日後死亡割合は、即時造影群で主要評価項目では即時造影群で143/265人(54%)、待機的/選択的造影群で122/265人(46%)、ハザード比1.28(95%CI 1.00 to 1.63 p=0.06)であり、両群間に有意差を認めなかった。Per-protocolによる感度分析のハザード比は1.21(95%CI 0.94 to 1.56)で差はみられなかった。また、30日後の心筋梗塞/重度の神経障害、または心筋梗塞/重度の神経障害の複合アウトカム、ICU滞在期間、SAP(Simplified Acute Physiology)ScoreIIの点数、30日以内のうっ血性心不全による再入院、心筋逸脱酵素の最大値、安全性の評価項目(中等度以上の出血、脳卒中、腎代替療法が必要となる急性腎不全)などの副次的アウトカムについても、両群間に有意な差はなかった。
〔implication〕
本研究は、ST上昇やショッカブルリズムでない患者にまで適応を広げたが、即時的に冠動脈造影を行うことの利益は示されなかった。適応範囲を広げた分、患者の異質性が高いことが考えられるが、サブグループ解析の結果においても差はみられなかった。
本研究で血管造影が行われたのは、即時群で95.5%、待機群/選択群で62.2%であったが、責任病変が特定されたのが即時群で38.1%(94/247)、待機群/選択群で43.0%(67/156)だった。
この結果を踏まえ考察すると全体のアウトカムについては、待機群/選択群では心停止から24時間以降に血管造影がなされているため、それまでに亡くなって血管造影が行えなかったことによる負の影響と、即時群で他の原因の精査加療が遅れることや、血管造影中の全身管理の問題が負の影響が組み合わさった結果と言うことが出来る。
サンプルサイズ設計に関して、循環動態が不安定だったり致死的不整脈が除外されたうえで12%の効果量を期待することは楽観的であり、パワー不足が考えられる。待機群/選択群で17%でプロトコールバイオレーションがみられたことも結果に影響しうる。
以上から本研究結果から単純に即時的血管造影は効果がないと言うことは控え、今後の長期予後データや、現在進行中のDirect or Subacute Coronary Angiography in Out-of-hospital Cardiac Arrest (DISCO) trialなどの結果を統合して判断するべきと考える。

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文責:河合 太樹・増渕 高照・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科