急性呼吸不全患者に対する酸素投与:高値酸素化目標 vs 低値酸素化目標

Journal Title
Lower or Higher Oxygenation Targets for Acute Hypoxemic Respiratory Failure

論文の要約
・背景
急性低酸素性呼吸不全でIntensive care unit(ICU)に入室する患者は高濃度酸素が投与されることが多い。しかし、近年、高濃度酸素投与による有害性が指摘され、2018年のメタ解析では高濃度酸素が死亡に寄与する可能性が示唆された(Lancet 2018;391:1693-705)。しかし、その後に発表されたthe Liberal or Conservative Oxygen Therapy for Acute Respiratory Distress syndrome(LOCO2 )trialやthe Conservative Oxygen therapy during Mechanical ventilation in the ICU(ICU-ROX) trialでは、酸素制限群は酸素非制限群と比較して28日・90日死亡では明らかな差はみられず、むしろ酸素制限群で腸管虚血の頻度が高かったことが報告されている。本研究では、より厳密な酸素化管理プロトコルを遵守し、低値酸素目標群と高値酸素目標群での治療効果を比較した。

・方法
本研究は、2017年6月-2020年8月の間にデンマーク、スイス、フィンランド、オランダ、ノルウェー、イギリス、アイスランドの35施設で行われたオープンラベル多施設ランダム化比較試験である。18歳以上で急性呼吸不全に対し酸素投与(open systemで10L以上、closed systemでFiO2 0.50以上)が行われたICU患者を対象に、ブロックランダム化で割付を行った。ただし、ICU入室後12時間以上経過した患者、在宅酸素使用患者などは除外された。
低値酸素目標群はPaO2 60mmHg、高値酸素目標群群はPaO2 90mmHgを目標に酸素流量を調節した。主要評価項目はランダム化施行90日時点での死亡割合とし、副次評価項目をlife support(人工呼吸管理、腎代替療法、昇圧剤)なしでの生存日数割合、退院後の生存日数割合、重篤な副作用(ショック、心筋虚血、脳梗塞、腸管虚血)の数と定めた。
サンプルサイズは、低値酸素目標群の90日死亡割合を25%、相対リスク20%の差が出ると予想し、α:0.05、Power:80%と設定し、2928人以上の症例数が必要と算出された。

・結果
4192人が登録され、低値酸素目標群1441人、高値酸素目標群1447人に割り付けられた。
主要評価項目である90日死亡割合は、低値酸素目標群で42.9%、高値酸素目標群で42.4%(リスク比1.02(2-sided 95% CI:0.94-1.11))で有意差を認めなかった。副次評価項目のlife supportなしでの生存日数割合、退院後の生存日数割合、重篤な副作用数も両群で有意差を認めない結果となった。

implication
本研究では、低値酸素目標群と高値酸素目標群で治療効果、有害事象に明らかな差はみられなかった。また、LOCO2 trial などでみられた腸管虚血などの合併症においても差はみられなかった。本研究の強みとして、多施設RCTでオープントライアルであるが評価者は盲検化され、ハードアウトカムである点、フォローアップ率が良好であること、2群間でPaO2, FiO2に違いがみられる点である。一方、弱みとしては、治療者が盲検化されていない点、低値酸素目標群の平均PaO2が70.8mmHgと目標より高い点、サンプルサイズ計算での高値酸素目標群の死亡割合が25%であったのに対し、実際は42.4%と高く偶然誤差の可能性がある点である。また、本研究対象患者は死亡割合から重症患者が多いことが考えられ、より軽症な患者に対しては外挿できない。
低値酸素化目標は90日死亡の相対リスクを20%下げる効果はなかったという事実と上記批判的吟味した内容からは実臨床における影響は小さいと考える。しかし、サブグループ解析においては外傷性脳損傷や心肺停止後の患者において生存が多い傾向があり患者の異質性がみられる。そのため、これらの患者群を対象にした仮説検証が期待される。また、今後よりサンプルサイズの大きいMEGA-ROXの結果が発表される予定であり、システマティックレビューで実際の治療効果などに注目したい。

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文責 西方 一将・南 三郎


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科