カテーテル関連血流感染に対する輸液セットの交換頻度の影響

NPとして3ヶ月救命救急科ローテした鷲頭看護師の集大成の抄読会でした。素晴らしい!!

Journal Title
Effect of infusion set replacement intervals on catheter- related bloodstream infections (RSVP): a randomised, controlled, equivalence (central venous access device)- non-inferiority (peripheral arterial catheter) trial
Lancet. 2021 Apr 17;397(10283):1447-1458. doi: 10.1016/S0140-6736(21)00351-2. PMID: 33865494.

論文の要約
背景
中心静脈カテーテルや末梢動脈カテーテルを必要とする治療は多い。しかし、これらの侵襲的な処置はCRBSI(Catheter Related Blood Stream Infection)のリスクがあり、合併すると入院期間の延長やさらなる医療費がかかる。CRBSI 予防ガイドラインは多数存在するが、最も効果がある介入はカテーテル留置時のものであり、留置後の予防策におけるエビデンスは不足している。輸液セットの交換は留置後の予防策の一つであるが、その交換頻度に関するランダム化比較試験はない。本研究は、輸液セットの交換間隔を4日から7日に延長した場合のCRBSIの発生抑制効果およびコストに対する影響を検証した。

方法
本研究はオーストラリアの10施設が参加したランダム化比較(評価者盲検化)試験である。輸液セットの交換間隔を4日間毎と7日間毎で比較し、CVAD(Central Venous Access Device)におけるCRBSI発生割合の同等性仮説およびPAC(Peripheral Arterial Catheter)におけるCRBSI発生割合の非劣性仮説を別々に検証するようにデザインされた。対象は新生児ICUを除く入院患者で、CVADまたはPACを少なくとも24時間留置され、1週間以上留置が期待されるものとした。主要評価項目はCRBSIの発生割合とし、副次評価項目はカテーテル先端部のコロニー形成、輸液セットのコロニー形成、全原因の血流感染、退院時の全死亡割合、カテーテルの留置時間、消耗品と作業時間のコストとした。
解析手法としてサンプルサイズは,当初3 種類のデバイス(PICC,その他のCVAD,PAC)ごとに計算されたが、中間解析においてリクルート数が予定を下回っていたため、PICC・CVADを同グループとして再計算した。4日群のCRBSI発生割合を1.9%,±2%の同等性マージン、p=0.05を設定し1群あたり1110症例とした。PACに関して初期と変更なく、4日群のCRBSI発生割合を0.8%、非劣性マージンを2%、p=0.05とし、1群あたり340症例とした。介入の有効性を示すためデバイス100個あたりとカテーテル1000日あたりのCRBSIの発生割合も、絶対リスク差(ARD)と95%CIとともに算出した。主要解析は修正intention to treat(mITT)とPer protocol analysis(PP)とした。CRBSI発生の時間的経過を比較するためKaplan-Meier生存曲線を作成し、log rank Mantel-Cox testにて検定した。
CRBSIの層別化因子によって調整されたハザード比(HR)とその95%CIを求めるため多変量Cox回帰が使用された。副次的評価項目は、パラメトリック(Cox回帰)またはノンパラメトリック(Wilcoxon rank sum)検定を用いてグループ間を比較した。p値が0.05未満の場合, 有意差ありとみなし、統計解析ソフトはStataを用いた。

結果
6007人の患者が適性評価で3063例除外し、主要評価項目解析は、2944例が登録された。7日群1484例(CVAD 1127、PAC 357)で4日群1460例(CVAD 1、097、PAC 363)、PP解析に組み込まれた症例は、7日群でCAVD 725、PAC 198で、4日群はCAVD 997、PAC 346であった。患者全体の臨床的特徴について、平均年齢は成人で約58歳、小児で約2歳、男性が63%であり、ICU患者は62%、抗生剤投与割合が84%であった。
主要評価項目はCVADのCRBSIの発生(割合)は4日群で16人(1.46%)に対し、7日群で20人(1.78%)を比較すると、絶対リスク差は0.32%(95%CI -0.73 to 1.37)であり、CRBSIの発生割合は同等であった。PACのCRBSIの発生割合は4日群で0人に対し、7日群で1人(0.28%)を比較すると、絶対リスク差は0.28%(95%CI -0.27 to 0.83)であり、非劣性であった。また費用については、7日群は4日群と比較し削減される確率は、CVAD 89%、PAC 66%であった。さらに看護時間が7日群は4日群に比べCVAD174分、PAC7分の短縮結果となった。

Implication
著者らは本研究結果から輸液セット交換頻度は7日まで安全に延長することが出来て、コストや負担も削減されると結論づけた。
本研究の内的妥当性については大規模研究であり、介入は単純であり、結果評価者が盲検化されている点、PP解析とITT解析で主要評価項目の結果が一致し頑健性がある点は強みである。一方、PP解析において7日群が4日群と比べ除外人数が多く、その除外理由は不明である。CVAD、PAの4日毎に交換する群のCRBSI発生割合はいずれも予定より低いため、設定された劣性マージンが不適切である可能性やβエラーのリスクが無視できない。外的妥当性については対象患者が1週間以上カテーテルを留置することが期待される患者であること、新生児は対象に入っていないことには注意が必要である。また、オーストラリア1国であり、人種についての言及がない点は妥当性を下げる。
上記述べたような問題点はあるものの、mITTにおける主要評価項目の点推定値、信頼区間を考慮すると大きな差があるとは言えず、交換間隔を延長することによる医療費・人的負担の軽減には大きなメリットがあると考える。今後は観察研究などのリアルワールドでの報告が期待される。

文責 鷲頭・増渕・南


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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科