降圧薬使用者の敗血症を識別するための早期警告スコアリングシステムの臨床成績

Journal Title
Clinical performance of early warning scoring systems for identifying sepsis among anti-hypertensive agent users

論文の要約
背景:Quick Sequential Organ Failure Assessment(qSOFA)およびNational Early Warning Score(NEWS)は、救急部で敗血症のリスクが高い患者を迅速にスクリーニングするために広く使用されている。降圧剤はqSOFAやNEWSの構成要素である血圧に影響を与えるが、降圧剤使用者の敗血症に対するqSOFAとNEWSの予測性能については、ほとんど知られていない。本研究では、救急外来で感染症が疑われた患者において、Sepsis-3基準に相当する敗血症と臨床転帰(ICU入室と院内死亡)に対するqSOFAとNEWSの予測性能を、降圧剤使用者と非使用者で比較した。
方法:本研究は、2018年4月1日から2020年3月31日までの日立総合病院の救急外来のデータを用いた後ろ向きコホート研究である。初療を行った救急医が感染症を疑った18歳以上の成人患者(発熱が主訴、37.5℃以上の体温、臨床医の判断)を対象とした。外傷、心停止、他病院に搬送、バイタルサイン(収縮期血圧[sBP]、拡張期血圧[dBP]、心拍数[HR]、呼吸数[RR]、体温[BT]、Glasgow coma scale[GCS]、O 2飽和度[O 2 Sat])のうち5つ以上のデータ欠損がある患者を除外した。左記以外の欠損データはランダムフォレストにて代入した。qSOFA、NEWSそれぞれの敗血症の診断、ICU入室、院内死亡の識別能を評価するためc統計量を使用した。過去の研究と同様にそれぞれのスコアにおける各閾値で予測性能を求めた。降圧剤使用の有無で判別能の比較のために、DeLong's testによってROCカーブを比較した。感度分析として65歳以上とそれ以下に分けた検証もおこなった。

結果:12387人から感染が疑われた 2900人の患者が解析の対象となった。敗血症の患者は291例(10%)、ICUに入室した患者は1023例(35%)、院内で死亡した患者は188例(6.5%)であった。qSOFAおよびNEWSともに、降圧剤使用者は非使用者に比べて敗血症の予測性能が低い傾向にあったが、有意差はなかった(c統計量: qSOFA 0.66 vs 0.71, P = 0.07; NEWS 0.72 vs. 0.76, P = 0.15)。ICU入室と院内死亡に対する予測性能は、降圧剤使用者において有意に低かった。年齢によって層別化した感度分析での予測性能は、降圧剤使用者で低い傾向にあった。

Implication
本研究は、qSOFAの識別能が、その構成要素の血圧に関連する降圧薬の有無によって影響するか検証した。結果として降圧薬の使用により予測性能が落ちることが示された。
また、本研究の病院死亡に対するqSOFA≧2点の感度62%、特異度81%、qSOFA≧1点の感度91%、特異度48%という結果は、これまで報告されてきたSIRSよりも閾値によっては特異度が少し良い程度であってスクリーニングモデルとしは不十分であることが示された。ただし、本研究は日本の1病院で2年間の後ろ向きコホート研究である点、研究者の1人に本研究で利用された患者情報記録・管理システムである"Next Stage ER"を提供している会社の最高経営責任者の名があり潜在的に利益相反が存在しうることには注意を要するだろう。

post292.jpg

文責:中村・増渕・南


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科