重症病床に入室しない市中肺炎罹患患者に対する、3日間のみのβラクタム薬投与 (二重盲検、ランダム化、プラセボ対照、非劣性試験)

Journal Title
Discontinuing β-lactam treatment after 3 days for patients with community-acquired pneumonia in non-critical care wards (PTC): a double-blind, randomised, placebo-controlled, non-inferiority trial
Lancet 2021; 397: 1195-203

論文の要約
・背景
 市中・院内下気道感染症は主要な抗菌薬適応疾患の1つであるが、成人の市中肺炎に対する最適な抗菌薬投与期間は確立していない。市中肺炎に対して5日間以下で抗菌薬投与期間を設定した臨床試験は1つのみで、サンプルサイズが少数であるが、3日投与でも治療期間が充分である可能性が示唆されていた。
 ゆえにβラクタム3日間投与時点で安定している患者を、以降の治療をプラセボを投与し様子を観察する群と、追加で抗菌薬を5日間投与する群(通常治療群)に分け、15日目における治癒率に差があるか検証を行なった。

・方法
 本研究は、フランスの16施設で行われた、無作為割り付け、二重盲検 (プラセボ対照) 、非劣性試験である。
 18歳以上で、臨床所見上市中肺炎が疑われ、ICU以外に入院し、βラクタム (第3世代セファロスポリン、もしくは経口・経静脈アモキシシリン・クラブラン酸) 3日間投与時点でstability criteria (体温が37.8℃以下、心拍数が100回/分未満、呼吸数が24回/分未満、SaO2が90%以上、収縮期血圧が90 mmHg以上、意識清明であること) の全てを満たす患者を対象とした。一方で、重症かつ、もしくは複雑性市中肺炎 (膿瘍、大量胸水、慢性呼吸不全) 、既知の免疫抑制、レジオネラや細胞内寄生菌感染患者、末期腎不全 (GFR < 30 mL/分/1.73m2) 、医療ケア関連肺炎、誤嚥性肺炎疑い患者などは除外された。
 主要評価項目は抗菌薬投与開始から15日時点での治癒 (体温が37.8℃以下、臨床的症状の改善、追加の抗菌薬投与を要さない) とし、副次評価項目は30日時点での治癒、死亡割合、フォローアップ期間内の有害事象の頻度と重症度、CAP score (肺炎による症状、QOL評価) 、入院期間、元の生活に戻るまでに要した時間、治療コンプライアンスとした。非劣性マージンは、各群の90%が15日目までに治癒すると予想し、10%に設定した。サンプルサイズは両側95%信頼区間の下限値を用いて、検出力を80%として310人とした。主要評価項目はITT解析とper-protocol解析のいずれでも評価されている。また、安全性をITT解析で評価されている。

・結果
 本研究は2013年12月19日から2018年2月1日までの期間で行われた。706人をスクリーニングし、βラクタム薬3日間投与時点で310人が組入れ基準を満たし、プラセボ群 (プラセボを5日間内服。157人) とAMPC/CVA群 (アモキシシリン 1 gとクラブラン酸125 mgを3回/日、5日間内服。153人) にブロックランダム化された。プラセボ群で5人、AMPC/CVA群で2人同意を得られなかった。ITT解析では、15日時点での治癒はプラセボ群で117/152 (77%) 、AMPC/CVA群で102/151 (68%) と、2群間較差は9.42%、95%信頼区間は−0.38〜20.04であり、プラセボ群のAMPC/CVA群に対する、15日時点での治癒率の非劣性が示された。per-protocol解析においても同様で、プラセボ群で113/145 (78%) 、AMPC/CVA群で100/146 (68%) と、2群間較差は9.44%、95%信頼区間は−0.15〜20.34であり、非劣性が示された。有害事象はプラセボ群で22/152 (14%) 、AMPC/VCA群で29/151 (19%) であり有意差がなかった。最も頻度の高い有害事象は消化器疾患で、下痢が特に多かった。30日時点での死亡はプラセボ群で3人 (2%、肺炎球菌による菌血症、急性肺水腫後の心原性ショック、急性腎障害に関連した心不全) 、AMPC/CVA群で2人 (1%、肺炎再燃、急性肺水腫疑い) であった。

implication
 肺炎は世界的に主要な抗菌薬適応疾患だが、抗菌薬投与期間の短縮化に関しては先行研究に乏しい。本研究は、抗菌薬加療で速やかに臨床的安定が得られた患者においては、抗菌薬投与期間が3日に短縮しても臨床転帰が変わらない可能性を示した。抗菌薬投与期間短縮は、(日常診療で重要視されているde-escalation同様に)コスト、副作用、薬剤耐性菌出現の全てに関わるため、新規性があり価値ある研究である。
 内的妥当性の問題点として、15日目の治癒率が68-78%程度と事前の想定よりもかなり低く、標準治療がしっかりなされたかに懸念が残る。また、起因菌が示されておらず、非定型肺炎・ウィルス性肺炎などが結果に影響を与えた可能性がある。
 外的妥当性については、βラクタム3日投与時点で半数以上が除外されている点や、本研究で取り扱った重症度の市中肺炎に対しβラクタム単剤治療を行うことが、欧州ガイドラインや日本のガイドラインには則しているが、米国IDSA/ATSガイドラインではβラクタム単剤治療は推奨されていない点に問題がある。また、医療ケア関連肺炎、誤嚥性肺炎、認知機能障害が除外されており、適応される患者に注意が必要である。
 本研究結果からはルーチンでの抗菌薬の3日間治療は推奨されない。しかし、経過のよい患者に対してむやみに長期間抗菌薬を投与するプラクティスは減ってくるだろう。今後の追試としては起因菌の同定を徹底するか、多国籍多施設でパワーを上げた検証がなされることが期待される。

編:芥川晃也/増渕高照/南三郎

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科