重度の急性腎傷害に対する腎代替療法開始の2つの遅延戦略の比較(AKIKI 2):多施設、非盲検、ランダム化比較試験

Journal Title
Comparison of two delayed strategies for renal replacement therapy initiation for severe acute kidney injury (AKIKI 2): a multicentre, open-label, randomised, controlled trial

論文の要約
<背景>
2020年5月、重症急性腎不全に対する腎代替療法(RRT)開始を遅らせる場合と早期にRRTを開始する場合を比較したシステマティックレビューおよびメタアナリシス(IPDMA)が発表され、緊急透析の適応がない重症急性腎不全患者において、RRT開始時期(遅らせた場合と早めた場合)は生存率に影響せず、遅らせた場合の方がRRTの使用頻度が少ないことが示された。最新の大規模な多施設共同国際ランダム化比較試験(STARRT-AKI試験)でも、同様の結果が得られた。これまでの研究では治療開始が遅ければ遅いほど、RRTを受けなかった患者の割合が高い傾向が示されたが、どれほど遅らせることが適切かはまだわかっていない。本研究では、透析開始をさらに遅らせる戦略(more delay)が、遅らせる戦略(delay)と比較して、より多くのRRT不要日をもたらすという仮説を検証した。

<方法>
本試験は、フランスの39の集中治療室で行われた、多施設共同前向き非盲検ランダム化比較試験である。重度の急性腎不全(Kidney Disease: Improving Global Outcomes stage 3と定義)の重症患者を、72時間以上の乏尿または血中尿素窒素濃度が112mg/dL以上になった時点でランダム化し、直後にRRTを開始する待機戦略と、より遅延(絶対適応(顕著な高カリウム血症、代謝性アシドーシス、肺水腫)が出るまで、または血中尿素窒素濃度が140mg/dLに達するまで)させた長期待機機戦略のいずれかに、1対1で無作為に割り付けられた。主要評価項目は、ランダム化から28日目までの間に生存し、RRTを受けなかった日数(RRTフリー期間)で、ITT解析で行われた。サンプルサイズ計算は待機戦略のRRTフリー期間が17日、長期待機戦略が21日とし、α0.05、β0.8とし270人とした。

<結果>
2018年5月7日から2019年10月11日の間に、評価対象となった5336例のうち、278例がランダム化され、137例が待機戦略群に、141例が長期待機戦略群に割り当てられた。急性腎傷害やRRTに関連する可能性のある合併症の数は、両群間で同程度であった。主要評価項目となるRRTを行わなかった日数(RRTフリー期間)の中央値は、待機戦略群では12日(IQR 0〜25)、長期待機戦略群では10日(IQR 0〜24)であった(p=0.93)。
副次評価項目である60日後の死亡のハザード比(事前設定された)は1.65(95%CI 1.09-2.50,p=0.018)であった。急性腎傷害やRRTに関連する可能性のある合併症の数は、両群間で差がなかった。

Implication
著者らは本研究結果から長期待機的戦略は不要なRRTを避けることは出来ず、60日死亡リスクを上昇させうると結論づけた。本研究の主要アウトカムに採用されたRRT フリー期間は、RRTの開始・生存・中断の要素が組み合わさった複合アウトカムである。それに対してnon-parametric Wilcoxon rank-sum検定が利用されている。この検定は検出力が高いが死亡などの競合リスクが調整されない問題がある。主要アウトカム構成要素である28日死亡リスクには差はないが、60日死亡リスク上昇がみられ、競合リスクの影響がどの程度あるか判断することが難しい。一方、長期待機戦略群はRRTの開始が遅れるため、よりRRTフリー期間は短くなることが想定されるにもかかわらずRRTフリー期間に差がみられないため長期待機戦略のメリットは少ないといえるだろう。 副次評価項目に関しては事前設定されているが、多重比較の調整がされておらず、あくまで仮説の域を超えない。しかし、各死亡が60日死亡で有意差がありその他も長期待機戦略で高い傾向があることは注目に値する。RRTの中止基準については国際的コンセンサスはなく、本研究においても具体的中止基準としての数値設定がクレアチニン濃度と尿量のみであり、その最終判断は臨床医の裁量に委ねられているためバイアスのリスクがある。また、5536人のエントリーから278人に絞られ、除外された1000人以上がRRTを受けているため外的妥当性に問題がある。
長期待機的戦略は先進国における実臨床において普及しておらず、上記を踏まえても本研究結果をもって採用することはないだろう。本研究を含めRRTのデータが蓄積されつつあり、RRT開始・中止基準などの新たな解明が期待される。

編集:中村祐太・増渕高照・南三郎

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科