大規模外傷出血のための血液粘弾性試験拡張プロトコルに関するRCT

Journal Title
Viscoelastic haemostatic assay augmented protocols for major trauma haemorrhage (ITACTIC): a randomized, controlled trial

論文の要約
<背景>
外傷後の大出血は、世界で年間460万人の外傷死亡者の約半数を占めると推定されている。現行の外傷蘇生法は、出血源のコントロールと適切な止血療法によって外傷誘発性凝固障害を管理することに焦点を当ている。凝固障害をいち早く検出し、早期に介入する必要がある。通常の凝固検査(Conventional Coagulation Tests (CCT))では結果が出るまでに時間がかかり、ガイドとしての役割を果たしていない。一方、Viscoelastic Haemostatic Assays (VHA)はより早く検査結果を得ることが出来る。そこで、外傷後最初の24時間にViscoelastic Haemostatic Assays (VHA)を介しmajor haemorrhage protocols (MHP)を行った場合と、Conventional Coagulation Tests (CCT)を介してMHPを行った場合で死亡や輸血の必要量に差が出るか検証した。

<方法>
本研究は多施設無作為化試験である。対象は2016年6月1日から2018年7月30日までの期間に成人の外傷患者で出血性ショックの臨床症状を呈し輸血を開始しているものを対象とした。VHA群とCCT群に1:1で割り付け、ブロックランダム化を行なった。
主要転帰は24時間以内に大量輸血(10U以上)を受けていない、生存している被験者の割合とした。サンプルサイズは、患者の約28%が24時間までに死亡するか、大量の輸血を受けると推定し、VHAグループでこの割合が15%に減少させるとし、検出力80%、α=0.05を見積もり、必要サンプルサイズを170人とした。事前に推定した15%の脱落率を考慮して、各群196人に増加しIntention to treat(ITT)解析、per-protocol解析を行った。
主要評価項目をロジスティック回帰法で評価し、95%信頼区間を持つオッズ比を算出し、死亡割合は、ロジスティック回帰法、Kaplan-Meier法、対数順位検定を用いて、2群間を比較した。
また副次項目として、血液凝固までの時間、28日間の人工呼吸器装着なし、およびICU入室なしの日数、総入院期間、EQ-5DのQOLスコア、輸血された血液製剤の総数、試験介入を受けた数、介入までの時間をWilcoxon-Mann-Whitney検定またはカイ二乗検定を用いて比較した

<結果>
480人の外傷患者が登録対象となり、そのうち411人が無作為化された。その後15名の患者が無作為化を辞退し、396名の被験者を残してITT解析を行い201名の患者がVHA群に、195名がCCT群に割り付けられた
受傷後24時間の時点で、生存していて大量輸血を受けていない患者の割合には両群間に差はなかった(VHA 67%、CCT 64%、OR 1.15、95%CI 0.76-1.73)。VHA群では、24時間後に死亡した患者は29/201(14%)、大量輸血を受けていた患者が53/201(26%)、CCT群では、それぞれ33/195(17%)と55/195(28%)だった。
あらかじめ指定されたサブグループ間では、主要アウトカムおよび28日死亡率に統計学的に有意な差は見られなかった。

Implication
CCTとVHAガイド下の止血療法の間で転帰に差はみられなかった。
本研究は盲検化は出来ない性質の試験であるがハードアウトカムが設定され、多施設RCTならびにITT解析がなされている点は強みである。一方、Injury Severity Score (ISS)高値の患者を多く組み入れ、凝固障害をVHAによりはやく評価することで転帰が改善することを期待したが、実際の凝固障害の有病率は予想よりも低くく、期待された効果が発揮出来なかった可能性がある。また、同一施設内で異なる治療戦略が行われていたため2群間の治療が似通ってしまったことも考えられる。サブグループ解析では重症頭部外傷患者では予後がよい傾向がみられるなど患者間に異質性がみられる。
以上から今後、凝固障害がある患者群に対象を絞り、クラスターランダム化試験などの外的検証の結果を期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科