高齢者の救急トリアージにおけるClinical Frailty Scaleはアウトカムを予測するか?

Journal Title
Does the Clinical Frailty Scale at Triage Predict Outcomes From Emergency Care for Older People?, Annals of Emergency Medicine, 2020.

論文の要約
<背景>
入院時にフレイル(脆弱)な高齢者は入院中そして退院後の種々の有害転帰の増加と関連がある事が知られている。Clinical Frailty Scale(以下、CFS)は入院中の高齢者の在院日数増加、身体機能低下、施設入所、死亡率等の有害転帰リスクの高い集団を同定することができ、30日死亡率と関連があるとされているが、救急トリアージに適用した場合の有用性については不明である。過去に救急トリアージにおけるCFSを検討したコホート研究があるが、30日のアウトカムしか評価されておらず、在院日数や再入院率など重要な医療の質の予測効率は評価されていない。そこで、本研究では救急トリアージにCFSを適用した場合の患者の累積在院日数、再入院率、死亡率との関連性を評価するため、ヒストリカルコホート研究が行われた。

<方法>
英国レスター王立病院救急で行われた単施設後ろ向きコホート研究である。対象は2017年10月1日から2019年9月30日に当該施設を救急受診した65歳以上の患者とした。観察期間内で最初の救急受診時に初療医、トリアージナース、救急医の何かがCFSを評価し、スコアに応じてCFS1-3の群、4-5の群、6の群、7-8の群、9の群と5段階に分類。アウトカムは患者識別番号と診療録を照合し症例毎に記録された。
主要評価項目には救急受診時の転帰、累積在院日数、再入院率および院内外を含む死亡率がそれぞれ独立して設定された。研究の探索的性質を考慮して事前のサンプルサイズ計算は行われていない。なお、再入院率に関しては死亡が競合リスクとして設定された。

<結果>
観察期間内に救急受診した138,328名のうち、52,562名のデータが収集され、データクリーニングの過程で366名が患者識別番号の重複などの理由で削除された。しかし、収集されたデータのうち、実際には49.7%の患者がCFS評価を受けておらず、記録なし群としてカテゴリーが追加された。
全体の平均追跡期間中央値は380日で、19,479人が少なくとも1回再入院、期間中に9,215人が死亡している。
入院の相対リスクはCFSスコア1〜3を基準のカテゴリーとして、4〜5で1.45(95%CI 1.41〜1.49)、6で1.60(95%CI 1.56〜1.65)、7〜8で1.55(95%CI 1.50〜1.60)、9で1.51(95%CI 1.37〜1.66)、記録なしでは0.80(95%CI 0.78〜0.82)であった。救急受診後30日または180日時点で評価したCFSカテゴリー別の累積在院日数は、CFS増加にしたがって累積在院日数が増加する傾向があったが、CFS7〜9のカテゴリーでは救急受診180日後においてわずかに減少が見られた。
死亡を競合リスクとした場合の再入院率は粗解析でCFSスコア6まではCFSの増加とともに増加したが、その後は減少し、スコア9の患者の再入院率が最も低かった。この傾向は年齢、性別、 Charlson Comorbidity Index(以下、CCI)、NEWS-2で調整した解析でも同様の結果が得られた。全体の死亡率は観察期間内で24%であり、粗解析ではCFSカテゴリー増加に伴い死亡率も増加する傾向が見られた。この結果は年齢、性別、CCI、NEWS-2で調整された解析でも同様の結果であった。

Implication
高齢者を年齢だけで判断するのではなく、フレイルを用いて加齢による心身機能や生理的予備能が低下している状態を把握することで、入院後の適切なケアや治療アプローチの選択に繋げることができる可能性が示唆されている。その中で数々のフレイルのスクリーニングスコアが提唱されているが、どのスコアも煩雑で、客観性にかけるなどの問題点が指摘されている中で、CFSは簡便かつ所要時間も約1分程度とfeasibilityも高いため、救急現場で最も使用しやすいスケールとして注目されている。救急トリアージでのCFSの適応に関しては単施設の小規模前向き研究で、救急受診30日後の死亡率を予測できる可能性が示唆されていたが、今回の文献はより大規模かつ長期間である2年間のアウトカムを評価した。
内的妥当性の問題として、CFSが測定されていない患者が約50%存在しており、データの得られない研究対象者集団が存在している。このコホートの転帰は、CFS1−3の患者群の転帰と類似しており、軽症患者で受診時間が短かった等の理由が考えられるが、関連性は不明である。また、CFSが高い群では療養型老人病院などへの施設入所を増加させる事が知られているが、今回の研究では他施設への入院の有無が不明である。これら2つの要因はどちらも選択バイアス及び情報バイアスとなる可能性がある。検者間信頼度はκ値>0.8と誤分類の可能性は低いと考えられる。
また、外的妥当性としては当然のことながら研究対象者集団が英国の単施設の救急部門受診した患者であるため疑問が生じる。また英国でも救急受診はフリーアクセスであるが、高いプライマリケア浸透率が背景にあり、例えばかかりつけ医の登録率が高い、薬剤師への受診や看護師外来、リフィル処方、電話相談及び在宅医療なども普及していることから、救急受診理由は日本と異なることが予想される。また、英国では日本に比して病院死の割合(日:英=70%:50%)が少なく、Care homeや自宅での看取り(合計50%程度)も多いため、累積在院日数や再入院率のデータを日本に適応する際にも外的妥当性の問題が生じると考えられる。
結論として救急トリアージにおけるCFSは年齢や性別、CCI、NEWS-2などの交絡因子を調整しても65歳以上の再入院率や死亡率を予測できる可能性があるが、いずれもQOLなどの実際の患者にとって重要なアウトカムではない。救急トリアージにCFSを適応することで様々な健康アウトカムの悪化リスクが高い人々のコホートをスクリーニングできる可能性があるが。しかし、あくまでスクリーニングであり、リスクの高い集団は入院後に高齢者総合機能評価などの詳細なツールを用いてより総合的なFrailtyの評価を行うことで、その後のpatient-centered care、 早期退院計画, アドバンスド・ケア・プランニングなどに結びつけることができる可能性がある。
実際の救急トリアージでの適応に関しては、今後のRCTを含む更なる検証やインパクトアナリシスに期待したい。
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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科