原発性特発性気胸に対する外来治療デバイスを用いたマネジメント

Journal Title
Ambulatory management of primary spontaneous pneumothorax: an open-label, randomized controlled trial Lancet 2020; 396:39-49 DOI: 10.1016/S0140-6736(20)31043-6

論文の要約
<背景>
原発性特発性気胸は生来健康の若年者に生じ、英国では年間3000人程度の患者が罹患している。その中には保存治療が可能な患者もいるが、多くの場合穿刺吸引、胸腔ドレーンによる治療を要している。ドレナージを要する患者の入院期間は6-8日程度である。
一方、外来治療デバイスは入院の負担を減らすことが可能である。しかし、その有用性に関するデータは乏しい。
18本の論文をまとめたシステマティックレビューでは特発性・医原性気胸に対する外来治療デバイスを用いた成功率は8割程度と報告されているが、組み込まれている研究はバイアスが懸念される、パワー不足のランダム化比較試験や後ろ向き研究など研究の質に問題がある。そこで、本研究は原発性特発性気胸に対する外来治療デバイスの有用性。安全性について従来通りの治療と比較し検証した。

<方法>
英国の24の病院で行われたオープンラベルランダム化比較試験である。対象は16−55歳の症候性の気胸で来院され、外科的処置を要する患者とした。 介入群は外来治療デバイスを使用して退院後は第4病日まで1−2日おきに外来フォローを予定した。肺の再膨張を認め、エアリークがない場合にデバイスを除去し、その後は胸部レントゲンで再発の有無を確認した。再発した患者は入院し、胸腔ドレーンが検討された。対照群は British Thoracic Society Pleural Guidelinesに沿い、胸腔穿刺、胸腔ドレーン施行し、エアリークがなく再膨張が確認されれば退院とした。エアリークが持続すれば主治医の判断で持続吸引が施行された。患者は治療終了後から1週間、30日、半年後にフォローされ、ランダム化から1年後にもフォローされた。
主要評価項目には再入院含む30日以内の入院日数及び時間数が設定された。副次的評価項目としては追加の胸膜に対する処置、合併症、痛み、息苦しさのVisual analog scale、再発率、休みを取った日数が設定された。
サンプルサイズ計算に関してコントロール群の平均入院日数を4日、介入群の平均日数を1.7日と仮定した。これらの平均日数には対照群の50%までが穿刺のみで治療成功、外来治療デバイス患者のうち20%までが再入院すると仮定されている。 パワー80%、α0.05、離脱率10%とし236人とされた。

<結果>
2015年6月〜2019年3月の期間に気胸で入院された776人のうち236人がランダム化された。そのうち33人が除外され、102人が介入群、101人が対照群に割り付けられた。主要評価項目では介入群で入院日数0日(interquartile range ; 0-3)、対象群で入院日数2日(interquartile range ; 0-8)であった。(Median difference 2日, 95% CI, 1-3, p value<0.0001)
副次的評価項目では、両群において疼痛・呼吸困難のVAS score, 休んだ日数、30日間の再発率に関して有意差は認めなかった。

Implication
外来治療デバイスの使用により、気胸患者の入院日数が減少したことは患者のQOLを高めることを示唆する。しかし、副次的評価項目での症状緩和や休暇日数で差がないことから使用のメリットに疑問が残る。また、本研究では気胸の増悪、デバイスの閉塞などの合併症発生率において外来治療デバイスでより頻度が高かったことから現段階では安全性は保証されない。
オープンラベル試験で主要評価項目が入院日数であるため情報バイアスが懸念され、参加研究者が本研究で使用したデバイスの会社から資金援助を受けており、COIがあることはない的妥当性を弱めている。また、本研究が英国一国のみの研究であることや、使用したデバイスが一社のみのものであることから、外的妥当性の面も問題がある。以上から本外来治療デバイスの有用性を証明するためにはさらなる研究が必要と考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科