ARMEC合同Journal Club:Covid-19の治療のためのレムデシビルー最終報告

今回は亀田ファミリークリニック館山の総合診療科専攻医である塚原先生がARMEC救急科にて救急研修を行なっているので、合同Journal Clubに参加していただきました。

Journal Title
Remdesivir for the Treatment of Covid-19 -- Final Report

論文の要約
<背景>
coronavirus disease 2019(Covid-19)に対する治療薬として有効性が示されている抗ウィルス薬はまだない。推定治療薬としてレムデシビルの臨床的有効性と安全性を評価した。New England Journal of Medicine May 22, 2020に報告されたPreliminary Report を更新したFinal Reportである。

<方法>
米国45施設をはじめとするデンマーク、英国、ギリシャ、ドイツ、韓国、メキシコ、スペイン、日本、シンガポールの合計73施設が参加した米国国立アレルギー感染症研究所による臨床第III相試験(The Adaptive Covid-19 Treatment Trial; ACTT-1)として二重盲検ランダム比較試験が実施された。2020年2月21日から2020年4月19日までの期間で登録されたCovid19で入院し、下気道感染のある成人患者1062人を層別化、無作為化し、レムデシビル投与群とプラセボ投与群は1:1の比率でランダムに割り当てられた(介入群541人 vs 対照群521人)。いずれも最大10日間投与され(レムデシビルは第一日目に200mg、その後100mg)、登録後28日間(入院1日目から29日目まで)毎日8カテゴリーの重症度の順序尺度(注*)と生理学的スコア(National Early Warning Score)で評価された。重篤な有害事象と重症度の増加も記録された。Primary outcomeは回復までの期間で、回復は退院もしくは治療不要な感染管理目的の入院の状態(カテゴリー1,2,3)で定義された。
(注*) 1. 退院(活動制限なし) 2. 退院(活動制限and/or在宅酸素あり) 3. 治療が不要な入院4. 治療が必要な入院(酸素なし) 5. 酸素吸入が必要な入院 6. 非侵襲的換気又は高流量酸素が必要な入院 7. 侵襲的人工呼吸器or ECMOが必要な入院 8. 死亡

<結果>
ベースラインの概要は、平均年齢58.9歳、男性が64.4%、登録施設は北米(79.8%)、欧州(15.3%)、アジア(4.9%)で、人種は白人(53.3%)、黒人(21.3%)、アジア人(12.7%)。登録以前からの合併症を2つ以上もつものが半数以上(55.2%)を占め、上位は高血圧(50.7%)、肥満(45.4%)、糖尿病(30.6%)であった。症状発症から無作為化までの日数の中央値は9日、順序尺度はカテゴリー4が13.0%、カテゴリー5が41.0%、カテゴリー6が18.2%、カテゴリー7が26.8%であった。
Primary outcomeは回復期間の中央値で、レムデシビル投与群では10日(95% CI, 9-11)であるのに対し、プラセボ群では15日(95% CI,13-18)、回復率比は1.29(95% CI, 1.12-1.49; P<0.001)、介入群で改善がみられた。ベースライン別にみると、低用量酸素吸入が必要な患者(順序尺度カテゴリ5)で最も回復が多くみられた。
Secondary outcomeはday15の臨床状態で、8つの順序尺度を用いた比較オッズモデルを用いた解析より介入群は対照群よりも臨床的改善がみられた。(オッズ比 1.5; 95% CI, 1.2-1.9) カプランマイヤー推定死亡率はday15で介入群 6.7% vs 対照群 11.4% (ハザード比 0.55; 95% CI, 0.36-0.83)、day29では介入群 11.4% vs 対照群 15.2% (ハザード比 0.73; 95% CI, 0.52-1.03)。ベースラインの重症度で結果に差がみられ、カテゴリー5でもっとも改善がみられた (ハザード比 0.30; 95% CI, 0.14-0.64) 。
重篤な有害事象については、介入群131/532人(24.6%) vs 対照群163/516人(31.6%)、このうち呼吸不全に関する有害事象は8.8% vs 15.5% であった。

Implication
本研究でレムデシビル投与によって回復までの日数が5日間短縮したと報告し、Preliminary Reportと同様に、レムデシビルはCovid-19の治療に有効であると結論付けた。本研究のPrimary outcomeは当初、"8カテゴリーの順序尺度を用いたday15の臨床状態"であったが、Preliminary Reportの報告後に"day29までの回復期間の中央値"に変更されている。この点については、Covid-19の経過が想定よりも長かったためであり、正当な理由である。また、変更後のサンプルサイズ設計を含め、詳細にデザインが記載されており、内的妥当性は保たれると考えられる。
しかし、死亡や人工呼吸器の回避の効果は示されず、今回使用された順序尺度が臨床にどれだけ意味があるかは不明である。また、ECMO使用患者の経過も考慮すると、死亡などのHard Outcomeを検証するにはさらなる観察期間や多くのサンプル数が必要である。
現時点でレムデシビルの有効性安全性についていくつかの研究結果が報告されているが、それらの研究は異質性が高く、結果も一貫していないため、本研究の結果をもって結論付けることは出来ない。他の大規模RCT(WHOによるSOLIDARITY試験)やメタ解析の結果も踏まえて判断していく必要がある。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科