上腕骨骨幹部閉鎖骨折に対する手術治療と保存的治療の比較

安房地域医療センターとの合同Journal Clubを行いました。

Journal title
Effect of Surgery vs Functional Bracing on Functional Outcome Among Patients With Closed Displaced Humeral Shaft Fractures The FISH Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020 May 12;323(18):1792-1801. PMID: 32396179

論文の要約
背景
上腕骨骨幹部骨折は骨折全体の3%程度を占める。歴史的には手術治療やギプス固定による保存的治療が行われていたが、どちらの成績が良いのかは判然としていない。2017年に上腕骨骨幹部骨折に対して手術治療VS保存的治療で比較したRCT(J Bone Joint Surg Am. 2017;99(7):583-592)では6ヶ月後時点でのThe Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand (以下DASH) scoreを比較し有意差が無いとされた。しかしながら、現在は上腕骨骨幹部骨折の多くで手術治療が選択されており、本研究はより長期に渡って手術治療VS保存的治療の機能的予後を比較した。

方法
本研究は、2012年-2018年の間にフィンランドの2施設で行われた前向き研究である。対象は、18歳以上の片側で変位を伴う上腕骨骨幹部閉鎖骨折とした。主要評価項目には治療開始後12ヶ月時点でのDASH scoreが設定された。副次的評価項目として、安静時痛、動作時痛、ROM、DASH work, sport, performing arts module、15Dを用いたADL評価、患者満足度が設定された。サンプルサイズは、DASH scoreで10ポイントの差が検出できるように設定し、12.5%が脱落すると推定してα:0.05、Power:80%と設定し、80人以上の症例数が必要と算出された。

結果
無作為化された82人の患者を対象とし、手術治療群38人、保存的治療群44人に割り付けられた。主要評価項目のDASH scoreは手術群8.9(95%CI: 4.2-13.6)1、保存治療群12.0(95%CI: 7.7-16.4)であり両群間の差は-3.1(95%CI: -9.6 -3.3)と有意差を認めなかった。副次評価項目の安静時痛、動作時痛、日常生活での運動機能に有意差はなかったが、DASH modele scoreのsports and arts、「また同じ治療を希望するか」という質問については有意差を認めた。また6週間、3ヶ月時点でのDASH scoreは手術治療群で有意に低下していた。

Implication
本研究は前向きランダム化比較試験である。割り付け方法が概ね妥当である点脱落率も5%と低い点から、ある程度の内的妥当性を保っていると思われる。しかし、フィンランド1国かつ2施設のみでの研究であり症例数が少ない点、対象患者が82人に対し239人が脱落している点、手術治療群の術式が現在の主流とは異なるプレート固定術を採用している点においては外的妥当性に問題がある。
本研究は、従来から行われていた上腕骨骨幹部骨折に対する手術治療の有用性を検討した重要な研究である。保存的加療においても70%近くの患者は有害イベントなく経過しているものの、25-30%の患者は骨癒合不全をきたし二次的外科治療を必要としている。手術療法は上記のような骨癒合不全をきたすリスクが低く、かつ早期機能回復による社会的利点が期待できるが、橈骨神経麻痺や創部感染をきたすリスクに加えて手術治療そのものによる侵襲も考慮する必要がある。以上から、上腕骨骨幹部骨折に対する手術適応は、患者の年齢や社会的状況を考慮して総合的に判断する必要がある。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科