急性外傷性疼痛に対する経鼻ケタミン早期投与のオピオイド需要に及ぼす影響

Journal Title
Effect on Opioids Requirement of Early Administration of Intranasal Ketamine for Acute Traumatic Pain. Clin J Pain. 2020 Jun;36(6):458-462. doi: 10.1097/AJP.0000000000000821.

論文の要約
背景:
疼痛は救急患者の主な訴えの一つだが、多くの鎮痛剤があるにもかかわらず、未だに十分な管理がなされていない。救急外来では疼痛治療が遅れていることが多く、鎮痛剤の最初の投与までの平均時間は70?90分と推定されており、早期介入が望まれている。また、近年オピオイド鎮痛薬が広く使用されるようになった結果、その乱用や死亡との関連が懸念されている。
本研究は、救急外来の疼痛に対して早期の低用量ケタミン経鼻投与が早期症状緩和、オピオイド使用量を減らすか検証した。

方法:
本研究はチュニジアの3つの大学病院の救急外来で行われた前向き二重盲検ランダム化比較試験である。対象は救急外来に急性四肢外傷で来院し、疼痛がvisual analog scale(VAS)≧50の患者とした。患者は、コンピューターにより層別ランダム化され、経鼻ケタミン投与群と経鼻プラセボ投与群の2群に割り付けられた。プロトコル治療はトリアージの段階で行われ、ケタミン投与群ではケタミン25mg相当を含む溶解液を、コントロール群では同量の生食をスプレーで経鼻投与した。参加者、主治医、および看護師は盲検化されていた。一次アウトカムはED滞在中のオピオイドを使用した人の割合とし、副次アウトカムは非オピオイド系鎮痛薬の使用した人の割合、視覚アナログスケール(VAS)<30でEDから退院した患者の割合、そして前3つのアウトカム項目を含む複合アウトカムスコアを作成した。サンプルサイズは対照群でオピオイドが25%投与され、介入によりオピオイドの使用割合が10%減少すると仮定し、α;0.05、検出力90%として、各試験群あたり450人とした。無作為化されているが追跡不能になった患者をカバーするためにサンプルサイズを10%増加させ、合計1000人とした。結果の分析は、intention to treatの原則に基づいて行った。

結果:
1102人の患者を対象とし、プラセボ群550人、ケタミン経鼻投与群552人を対象とした。患者背景は人口統計学、臨床的特徴、ベースラインのVASスコアに関して群間における有意差はなかった。オピオイドの必要性は、ケタミン経鼻投与群でプラセボ群と比較して減少した(17.2% vs. 26.5%;P<0.001)。非オピオイド系鎮痛薬の必要性は、ケタミン経鼻投与群でプラセボ群と比較して有意に低かった(31.1% vs. 39.6%;P=0.003)。VASスコア30未満で退院した患者の割合は、ケタミン経鼻投与群で有意に高かった(P<0.001)。複合アウトカムスコアの平均値はプラセボ群で0.97、ケタミン経鼻投与群で0.67であった(P<0.001)。

Implication
本研究は多施設の救命センターで行われた前向き二重盲検ランダム化比較試験であり、サンプルサイズも大きく、内的妥当性が高い。しかし、ケタミン投与はバイタルサインや意識レベルに影響する可能性が高く、治療効果が可視化されうるためその後のオピオイド投与に影響を与えた可能性があり、情報バイアスが懸念される。また、1カ国の結果であるため外的妥当性には問題がある。
本研究は救急外来における疼痛に対していち早く対処し、オピオイド使用を減らす方策を示唆した重要な研究である。ケタミン経鼻投与は比較的簡便であり、迅速な効果発現が期待でき、有用な手段となりうる。しかし、上記に示した問題点や四肢外傷の疼痛に限定した結果であり、副作用の報告など不十分な点は否めない。したがって、救急外来での疼痛に対する実臨床への適応は副作用も考慮し、患者個別で検討する必要がある。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科