急性期虚血性脳梗塞に対しての、血栓回収療法vs血栓回収療法+rt-PA

Journal Title
Endovascular Thrombectomy with or without Intravenous Alteplase in Acute Stroke
N Engl J Med 2020; 382:1981-1993 DOI: 10.1056/NEJMoa2001123

論文の要約
<背景>
2014年以降、5つのRCTで前方循環系の大血管閉塞による急性期虚血性脳梗塞患者において、アルテプラーゼ(以下rt-PA)と血栓回収療法の併用は有効性が示され、血管内血栓回収術は、前方循環系の大血管閉塞による急性虚血性脳卒中を患う患者の標準的な治療法の1つになった。一方で、観察研究のメタアナリシスでは血栓回収療法単独とrt-PA併用では差がないことが示されている。rt-PAは、虚血性領域の早期再灌流を増加させ、血管内血栓摘出術後の残存遠位血栓を溶解する効果が期待できるが、近位に位置する大きな血栓の場合には血栓の溶解効果は限られている。今回、中国の三次病院で前方循環系の大血管閉塞を伴う急性虚血性脳卒中患者に対して、血栓回収療法単独がrt-PA併用と比較し劣らないか検証した。

<方法>
中国の18省にある41の三次医療センターで前方循環の大血管閉塞による急性期虚血性脳卒中に対して、90日後のModified Rankin Scale Score(以下mRS)を評価するオープンラベル多施設ランダム化比較試験を行った。Inclusion Criteriaは18歳以上で発症から4.5時間以内のrt-PA可能である急性虚血性脳卒中患者で、CTAで前方循環の主要血管閉塞(頭蓋内ICA又はMCAのM1,M2)が確認された患者であった。なお、発症前のmRSが2以上の患者や、出血リスクでrt-PAが使用できない患者などは除外された。
サンプルサイズは、共通オッズ比;1.16、非劣性マージン;0.8とし、power;80%、両サイドαレベル;0.05として5000回のモンテカルロシュミレーションを実行して636と算出した。適格患者はWebベースのシステムを利用し、層別法で割りあてられた。併用群のrt-PAはASA-AHAや地域のガイドラインに従い0.9mg/kgの標準容量が血栓回収療法の前に投与された。Primary outcomeは90日後のmRSで標準化されたフォームを利用し、直接/電話面接で評価された。Secondary Outcomeは90日以内の死亡(±14日)、介入前の再灌流、 最終血管造影でのeTICIスコア(2b, 2c, 3)、CTAで評価した24-72時間後の再灌流率、24時間後と5-7日後のNIHSSでのスコア、mRSのスコアによる二分法とした。すべての分析はITT解析で行われた。Primary OutcomeはShift analysisで行い、Secondary Outcomeにおける多重比較の調整はされなかった。

<結果>
2018年2月21日〜2019年10月26日で656人の患者を登録し、327人を血栓回収療法単群、329人を血栓回収+rt-PA併用群にランダムに割り振った。患者背景は男女比や重症度など含めて有意な違いはなかった。病院到着後からrt-PA投与までの時間は中央値59分、病院到着から血栓回収のためのシース挿入まで中央値84/85.5分(血栓回収単独/rt-PA併用群)、ランダム化から再開通までは中央値102/96分(血栓回収単独/rt-PA併用群)であった。
90日後のmRSの調整共通オッズは1.07(95%Cl:0.84-1.43、P=0.02)、非調整共通オッズは1.09(95%Cl:0.81-1.40、P=0.04)と信頼区間の下限が非劣性マージンである0.8を上回った。

Implication
本研究は1か国ではあるが、多施設の三次医療センターを舞台としたランダム化比較試験であること、前方循環系の閉塞による急性虚血性脳卒中の治療が実臨床に即していた点、mRS(0〜1点)の良好な結果が両群ともに1/3とこれまでの研究結果と遜色ない点は結果の妥当性が高いことを示唆している。しかし、中国1国の試験であること、結果評価者は盲検化されているものの、患者・治療者は盲検化されず、mRSというソフトアウトカムであるため情報バイアスが懸念されること、非劣性マージンも0.8と大きい点などを考慮すると、この研究結果から血栓回収療法単独がrt-PA併用に劣っていないということは出来ないだろう。今後の追加試験やシステマティックレビューの結果を参照する必要がある。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科