慢性腎不全患者における安定型狭心症の侵襲的処置に関する多施設ランダム化比較試験

Journal Title
Management of Coronary Disease in Patients with Advanced Kidney Disease
N Engl J Med 2020;382:1608-18. DOI: 10.1056/NEJMoa1915925

論文の要約
安定型の狭心症患者に対してPCIやCABGなどの侵襲的処置と保存的加療を比較した研究は今日まで多く行われており、早期の侵襲的処置は総死亡率や心血管イベントの発生率を減少させないと報告されている。しかし、これら先行研究では慢性腎不全の患者は除外されている。そこで本研究は、進行した腎不全をもち、中等度以上の安定型狭心症をもつ患者に対して早期侵襲的な治療を行うことが予後を改善させるかどうか検証した。

本研究は118の国から選ばれた30の施設で行われたオープンラベル、多施設ランダム化比較試験である。期間は2014年4月29日-2018年1月31日までの期間に施行された。対象は21歳以上でeGFR <30ml /min または透析導入されており、画像検査または運動負荷試験で中等症または重症の安定型狭心症と診断された患者であった。左主幹動脈に50%以上の狭窄のある患者、EF35%未満の心不全を持つ患者、NYHAIIIまたはIVの重症心不全患者、重症弁膜症、手術またはカテーテル治療が必要な患者、また薬物のコンプライアンスが悪い患者については除外された。患者はcentral interactive voice-response またはWeb-based response systemでランダム化されPCIやCABGを行う侵襲的治療群と薬物療法単独群に1対1に割り振られた。薬物療法は高血圧、脂質異常症、喫煙の項目について管理された。高血圧は収縮期血圧135mmHg未満、脂質異常症については85mg/dl を目標に管理された。
主要評価項目は3年間での総死亡率、心血管イベントの発生率であった。サンプルサイズは保存的加療群の累積イベント発生率が60-75%、早期侵襲的治療群の治療効果を23〜27%と仮定し、α=0.05, 検出力=81%として,サンプルサイズを500人と推定した。その後2018年に中間解析に基づき、beysian推定を行い、保存的加療群の累積イベント発生率が41-48%、積極的治療群と比較して22-24%高いと推定しなおし最終的なサンプルサイズを777人とした。
結果は侵襲的処置群 388人、保存的治療群389人割り振られた。集団特性は特筆すべき差は認めなかった。主要評価項目の3年間での総死亡率、心血管イベントの発生率は侵襲的処置群で123人(36.4%),保存加療群で129人(36.7%)有意差を認めなかった(p=0.95, adjusted HR= 1.01(0.79-1.29))。副次評価項目として総死亡率、心血管イベントの発生率、不安定狭心症での入院率、心不全の発生率が調べられたが優位差のついた項目はなかった。保存的治療群と比較して侵襲的治療群では、脳卒中の発生率(p=0.004, adjusted HR=3.76),総死亡率または透析導入率(p=0.03, adjusted HR=0.03)を多く認めた。

Implication
筆者らは本試験では慢性腎不全を基礎に持つ安定型狭心症の患者に対して早期にPCIやCABGなどの治療を行っても総死亡率や心血管イベントの発生率を改善しないと結論付けた。
本研究はオープンラベルであるが、主要評価項目がHard Outcomeで脱落も少なく、その点は内的妥当性が高い。一方で何人の患者から最終的に777人に絞られ、それがどのような理由で除外されたかが示されていない。また、服薬コンプライアンスの悪い患者や重度の心不全をもつ患者についても除外されており選択バイアスが懸念される。
また本研究は、安定型狭心症患者に対して保存的加療群と侵襲的治療群を比較し3.2年間の総死亡率及び心血管イベントの発生率を比較したISCHEMIA STUDYと並行して行われた。ISCHEMIA STUDY では事前に冠動脈CTが撮影され冠動脈の狭窄部位が同定されており、CAG後の再開通療法の割合が79%、保存的加療群で観察期間内に待機的に再開通療法が20%に行われていたがイベントの発生率の有意差が得られていなかった。一方で本研究は腎不全増悪が懸念され、冠動脈CTは撮影されておらず、CAG施行後に狭窄部位が同定されない症例が多かった。その結果、早期に侵襲的治療が行われた割合が50%、保存的加療群で観察期間内に待機的に再開通療法が施行された割合が20%であった。ISCHMEIA study と比較して待機的な再開通療法の割合が変わらないにも関わらず、侵襲的治療群の介入割合が低い点は予後に有意差を出にくくしている可能性がある。
外的妥当性については多国籍多施設共同研究であり、薬物治療も標準的な治療がなされている点は外的妥当性が高いと考える。
以上を考慮すると、慢性腎不全を基礎疾患にもつ安定型狭心症に対して初期治療としてCAGを含めた侵襲的な処置は患者の予後やACSの発症を抑制しない可能性がある。サブグループ解析では重症と中等症で異質性が見られており、また論文中でランダム化されるまでに除外された患者の数が明示されていないことから選択バイアスが強く働いている点を合わせると薬物療法のみを選択する場合は、適応を慎重に決める必要がある。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科