上部消化管出血に対する6時間以内の緊急内視鏡と6〜24時間以内の早期内視鏡における死亡率に関するランダム化比較試験

Journal Title
Timing of Endoscopy for Acute Upper Gastrointestinal Bleeding
Lau JYW, Yu Y, Tang RSY, et al. Timing of Endoscopy for Acute Upper Gastrointestinal Bleeding. N Engl J Med. 2020;382(14):1299-1308. doi:10.1056/NEJMoa1912484

論文の要約
<背景>
入院時の上部消化管出血における死亡率は約10%と言われ、緊急処置を要する疾患の1つである。どのタイミングで内視鏡的止血治療を行うかは様々な議論があり、国際的なコンセンサスとしては、出血確認後24時間以内の内視鏡治療が推奨されている。近年発表された2つの大規模コホート研究では、より重症な群において上部消化管出血の死亡率と処置までの時間における関連を示したが、6時間以内の緊急内視鏡的処置と6〜24時間以内の早期内視鏡的処置ではどちらの群がより死亡率が低いかは結論が出ていない。今回は、出血・死亡のリスクがより高い集団における緊急内視鏡的処置と早期内視鏡的処置におけるランダム化比較試験を行なった。

<方法>
香港中華大学で行われた単施設のopen labelのランダム化比較試験である。1:1の中央コンピュータ割付方式でランダム化された。患者群は救急・内科病棟に入院中もしくは新規入院した患者であり、吐血・下血など上部消化管出血の兆候があり、Glasgow-Blatchford score 12点以上の患者が組み込まれた。また、18歳未満、同意が取れない、妊娠中、hypovolemic shockかつ初期蘇生後にも改善しなかった患者は除外された。介入群は6時間以内に緊急内視鏡が施行され、対照群は24時間以内の早期内視鏡検査が施行された。どちらの群も入院時にPPI(Proton pomp inhibitor)を80mg bolus かつ8mg/時で72時間の高容量のPPI静注を継続した。静脈瘤出血患者には止血薬と予防的抗菌薬を施行した。主要評価項目は発症後30日以内の全ての死因における死亡とした。副次評価項目として、初回内視鏡治療での成功症例数、7日後30日後の再出血とその原因、ICU及び一般病床入院期間、30日以内の追加の内視鏡治療、緊急手術、血管造影による塞栓術、副作用や輸血施行とした。サンプルサイズは、先行研究を元に検出力80%、α=0.05、対象群の死亡率を16%、効果量を8%と見積もり、1群あたり258人と計算した。Intention to treat解析を行った。

<結果>
2012年7月から2018年10月まで4715人がスクリーニングを受け、598人がGlasgow Blatchford scoreが12点以上であり、516人がランダム化に組み込まれた。集団特性は同等であり、対照群にて20人は血圧低下、新鮮吐血などで時間など詳細は不明であるが緊急内視鏡が施行された。主要評価項目では、介入群と対照群で有意な差はつかなかった。(difference, 2.3 percentage points; 95%CI, −2.3 to 6.9)副次評価項目としては、再出血は介入群28 人 (10.9%)対照群20人 (7.8%)であり有意差はなかった。(difference, 3.1 percentage points; 95%CI, −1.9 to 8.1)同様に、初回内視鏡治療での成功症例、7日後30日後の再出血の原因、ICU及び一般病床入院期間、30日以内の追加の内視鏡治療、緊急手術、血管造影による塞栓術、副作用や輸血施行においても有意差はなかった。内視鏡のタイミングは、受診から内視鏡までの平均時間は緊急内視鏡群で9.9±6.1時間、早期内視鏡群で24.7±9.0時間だった。Post-hoc解析では、内視鏡を施行した時間と出血と死亡の関連を調べたが、有意差はなかった。

Implication
本研究結果から著者は、上部消化管出血で入院した患者において、消化器内科コンサルテーション後6時間以内の緊急内視鏡検査は6〜24時間以内での早期検査と比較して30日死亡と関連しないと結論づけた。
本研究はよくデザインされており、臨床疑問も切実である点は強みであるが、Glasgow Blatchford score12点以上をinclusion criteriaに用いている点で内的、外的妥当性ともに問題があると考える。Protocolでこのスコアが中国を含むアジアのコホートで12点以上が死亡率の予測に優れていたことを示しているが、これまで報告されてきた外的検証では点数が低い(0〜2点)場合に医学的介入が不要である可能性が高いことのみが示されている事実と異なっている。そのため、この選択基準が患者選択として妥当であるか疑問が残る。また、hypotensive shockや救急外来で吐下血をきたした患者が除外されている点も選択バイアスが懸念される。結果的に本研究では対象から90%近くが除外されている。Sample sizeの設定において対象群の死亡率を16%、効果量を8%と見積もったが、実際の死亡率や観察された死亡率の差はずっと小さく検出力不足も懸念される。受診から内視鏡検査施行までの平均時間が緊急内視鏡群で9.9±6.1時間と非常に長い点も死亡率に差が出にくい要因かもしれない。
以上のlimitationや本研究が1国単施設でのものであることを踏まえると、この結果自体は"6時間以内の緊急内視鏡検査により死亡率が8%改善する"という仮説は証明できなかったというpilot的な位置付けになるだろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科