世界の敗血症罹患率および死亡率1990-2017:世界の疾病負荷研究より

論文名
Global, regional, and national sepsis incidence and mortality, 1990-2017: analysis for the Global Burden of Disease Study
Lancet, 2020,395(10219), 200-211. PMID:31954465

亀田ER/ICUは定期的に合同でJournal Clubを開催しています。ERとICUは診療科は違いますが、互いにシームレスに情報交換を行い、どちらも継続的に診療・学ぶことができるのは亀田のいいところです。

論文の要約
敗血症は主要な世界的健康問題として認識されているが、全世界の罹患率または死亡率の推定値は院内や成人症例、先進国のみのデータに限られていた。本研究は1990年から2017年までの全世界の国/地域別の敗血症罹患率および死亡率の推移を評価した記述研究である。まずはじめにGBDデータベースから各症例の死因をICDコードへと変換し、敗血症による死亡した症例を同定した。次に、混合効果線形回帰モデルを用いて年齢、性別、時代、地域、原疾患に応じた敗血症関連死亡割合や致死率を算出した。その結果を用いて、年齢、性別、時代、地域、原疾患毎の推定敗血症関連死亡率や罹患率を算出した。結果として、2017年の全世界での敗血症の疾病負荷はこれまでの推定値の2倍に達した。(全世界で年間発症数4,890万人[95%UI 38.9〜62.9]、年間死亡者1,100万人[10.1〜12.0])この差は、全世界の敗血症発症数の5割以上を占める小児(特に新生児)を解析に含めることができたことや、以前はデータが不足していた社会人口統計指数(Socio-demographic index;SDI)の低い地域での高い疾病負荷に起因している。さらに、敗血症関連死の原因疾患として約半数は外傷または非伝染性疾患を原疾患としていることが判明した。直近の約30年間で敗血症発症数は3割低下するも、未だに全死亡の約2割を占めていた。GBD 2017のデータの解析結果からは、特にSDIが低い地域での、敗血症の予防と治療を強化する必要性を強調している。

Implication
本研究は、小児や発展途上国を含む全世界的な敗血症疫学を調査した初めての研究である。GBDの死亡記録という個人レベルのデータや入院記録を用いることによりこれまでの研究のLimitationであった院外の患者や全年齢層、社会資源の乏しい国のデータも含めることができた。一方で、敗血症の定義として「敗血症」の病名診断もしくは、「何らかの感染症」+「何らかの臓器障害」の病名診断を用いており、2016年に発表されたSepsis-3の定義での「敗血症」とは異なる集団を見ている可能性がある。(例えば、ウイルス感染症を契機とした心不全増悪による死亡等)また、地域ごとに診療技術・検査設備のばらつきによりそもそもGBDの死亡記録に記載のある疾患の診断の正確性にも疑問がある。また、敗血症罹患率算出のために、一部の国の入院記録から算出した敗血症致死率を用いているが、院内致死率と院外致死率は大幅に異なる可能性が高く、過小評価であることが予想される。
本研究はこれまでより死亡率の高いと予想される集団を新たに組み入れることができたことから上昇傾向自体は妥当と考えられるが、上記のようなLimitationを内包するため、上昇の程度には妥当性の疑問が残る。そのため、点推定値の解釈には不確定区間の解釈が欠かせないだろう。
今後、院内発症と院外発症を区別した解析を含めて引き続き世界の敗血症の疾病負荷研究が継続することを望む。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科