ERにおける皮膚軟部組織感染の抗菌薬適正使用への教育介入の有効性 敗血症における新たな臨床病型の導出、検証と臨床への適応

Journal Title
Reduction of Inappropriate Antibiotic Use and Improved Outcomes by Implementation of an Algorithm-Based Clinical Guideline for Nonpurulent Skin and Soft Tissue Infections

論文名
Ann Emerg Med. 2020 Feb 13 PMID:32063343
Derivation, Validation, and Potential Treatment Implications of Novel Clinical Phenotypes for Sepsis
JAMA.2019 May 19 PMID:31104070

論文の要約
"背景"
敗血症における宿主免疫反応などの病態の理解は進んできているが、実際に敗血症を対象とした新たな治療に結びつくことは困難であるの創出はほとんど成功していない。その一因として敗血症という疾患概念がの異質性のが高い概念でことが敗血症治療の創出が難しい一因かもしれないある可能性がある。そのため、敗血症をいくつかの一定の特徴をもつ新たな臨床病型に分類し、検査値、臨床経過や過去の研究結果とのそれぞれの臨床病型の関連を検証することがこの研究の目的である。
米国において皮膚軟部組織感染症は増加傾向である。2000年代前半には患者人数は倍増し、それにともなったコストも増加している。特にEmergency Department(ED)で増加している。近年、入院の原因となった感染症のうち、皮膚軟部組織感染症は2番目に多い原因である。さらに皮膚軟部組織感染症は、初期治療の失敗が5人に1人と多く、またEDでは3人に1人が入院になっている。非化膿性皮膚軟部組織感染症は主にβ溶連菌が起炎菌でありとなっており、黄色ブドウ球菌は起炎菌であることは少なく、仮に黄色ブドウ球菌が起炎菌であったとしてもほとんどはMSSAである。そのため、狭域βラクタム系抗菌薬が第一選択と考えられるが、実際には抗MRSA抗菌薬の使用が増加していて、ガイドラインに従った抗菌薬投与は半数以下の症例でしか行われていない。しかもしかし、不必要な抗MRSA抗菌薬の使用は、有効でないばかりか副作用の可能性が高くなり、害となる可能性がある。ガイドラインに基づいたアルゴリズムを作成し、それをもとにした教育介入を行うことで、不必要な抗菌薬使用を減少させ、入院適応の適切な判断を増加させることができるか検証することが、本研究の目的である。

"方法"
 研究デザインは、多施設前向き前後比較コホート研究であった。2017年1月~12月に米国内の1つのacademic centerと1つの市中病院のEDを受診した18歳以上の患者で、非化膿性皮膚軟部組織感染症の診断を受けた患者を組み入れた。切開やドレナージを施行した患者および受診4週間以内に皮膚軟部組織感染症として診断、治療された患者は除外した。皮膚軟部組織感染症治療に対するIDSAのガイドライン、CDCの推奨、一次文献をもとに感染症科医を含む抗菌薬適正使用チームが治療アルゴリズムを作成した。このアルゴリズムでは、患者背景や所見によって重症度をmild, moderate, severeに分類し、それぞれの重症度に基づいて抗菌薬を推奨した。この際、severeは重症度に応じてさらに二分され、異なる抗菌薬推奨とし、結果として抗菌薬推奨は重症度に基づいて4種類に分類された。介入のはじめの月にEDのミーティングで、アルゴリズムやその背景となる根拠などについての講義、過去のEDでのバンコマイシン使用量の説明などを行い、EDのスタッフ1人ずつに過去のバンコマイシン処方量を教えた。アルゴリズムをポケットサイズのカードに印刷して配布し、EDの壁にアルゴリズムのポスターを掲示した。介入開始の翌月には、アルゴリズムの逸脱処方についてフィードバックを行い、これを毎月、4か月間にわたって行った。データ収集は介入開始の2週間後から開始した。患者への治療成績のインタビューは、患者の帰宅後2-6週間の間に行った。英語を話せて、電話番号をもっている介入開始の前後3か月間で受診した患者にのみ電話を用いた構造化インタビューを行った。事前に設定した変数を実際の臨床医のアドヒアランスについて知らないリサーチアシスタントがデータは、SENECA derivation cohort(2010-2012年のUPMCヘルスケアシステムの患者電子記録から抽出した、Sepsis-3の条件を満たす患者), SENCA validation cohort(前述同様の2013-2014年にえられたもの)、GenIMS(アメリカで得られた重症市中肺炎の多施設前向きコホート)の3つの観察研究コホートと、ACCESS, PROWESS, ProCESSの3つのRCTを利用した。GenIMSと3つのRCTについては敗血症の定義としてSepsis-2を利用していた。臨床病型を導くための変数として、患者背景、バイタルサイン、炎症反応、臓器障害などを反映する臨床現場で通常えられる得られる情報29項目変数を選択した。導かれた臨床病型に対して、評価する検査値として免疫系、炎症反応、内皮細胞障害、凝固異常、臓器障害を反映するものを選択した。評価する予後としては28日死亡率をPrimary clinical outcomeとし、ICU入室やカテコラミン使用日数、人工呼吸器使用日数を選択した。1.SENECA derivation cohortを用いて臨床病型を導出した。まずOPTICS plotがなめらかであったため、clusteringの手法はConsensus k means clusteringを選択し、clustering解析をおこなった。得られた臨床病型が再現性のあるものか確認するため、同様のコホートであるSENECA validation cohortでも同様の臨床病型の抽出結果が確認再現できるかを内部検証した。また類似のclustering手法であるLatent class analysisによってSENECA derivation cohortを解析した。外部データでの再現性を検証にはするため、GenIMSで臨床病型の予測ができるか検討したを用いた。2.次にそれぞれの臨床病型の検査値、臨床経過との関連を検討した。これにはΧ2検定、Log-rank testを用いた。3.最後に過去の3つのRCTに対する臨床病型の頻度分布がどのように影響するかを検討した。臨床病型の頻度を6パターン作成し、それぞれのパターンでMonte Carlo simulationをおこなった。28日死亡率や365日死亡率についてLogistic回帰分析を行った。またSOFA scoreやAPACHE-3、感染部位と臨床病型の関連も検証した。これにはKruskal-Wallis testおよびΧ2検定を使用した。
電子カルテからED受診時の記録を抽出した。患者の併存疾患についてはCharlson comorbidity index scoreを使用した。検者間信頼性はサンプルの10%を用いて確認した。Primary outcomeは、EDの医師のガイドライン順守率(処方と重症度の一致率)、バンコマイシンの処方頻度、EDからの入院率とした。Secondary outcomeは、患者報告による治療失敗の確率、患者報告による再入院の確率とした。介入前後の変数の比較には、カテゴリー変数に対してはΧ二乗検定、連続変数にはStudent's t 検定をおこなった。Outcomeの比較には、Χ二乗検定および介入との関連性については多変量ロジスティック回帰解析を行った。患者フォローアップで漏れた患者の結果への影響を評価するために、漏れた全員が再入院したworst scenarioと、漏れた全員が再入院しなかったbest scenarioで感度分析を行った。Primary outcomeについては、7%以上の差がつくものと仮定し、α0.05, power 80%と計算してサンプルサイズを設定した。

"結果"
まず1524人が非化膿性皮膚軟部組織感染症として診断治療されていた。うち129人が4週間以内に繰り返し治療を受けていて、35人が切開やドレナージを受けていたため(いつ除外された?)、これらを除外した。合計1360人のうち、介入前が665人、介入後が695人だった。診断をうけたうち全体で30.7%が入院となっていた。介入前後の患者背景に有意な差はなかった。Primary outcomeの患者重症度と治療内容の一致率については、アルゴリズムの推奨に比して狭域な抗菌薬を投与される患者は介入前後でほぼ変わらず(10.1→12.4%)(アルゴリズムが重症度に応じた抗菌薬選択を指示している情報がないと理解できないです。Undertreatedならわかりますが、境域な抗菌薬投与されたの意味がわかりにくいです)、推奨より広域な抗菌薬を投与される患者が減少し(46.9→32.5%)、ガイドラインと一致する適切な抗菌薬投与を受ける患者が増加していた(43.0→55.1%)。多変量モデルでは、介入によってガイドラインアドヒアランスは22%上昇(adjusted RR 1.22; 95%CI 1.10-1.37)していた。またバンコマイシンの使用は59%減少(adjusted RR 0.41; 95%CI 0.32-0.51)し、入院率も26%減少(adjusted RR 0.74; 95%CI 0.64-0.87)した。Secondary outcomeでは、介入前後で患者報告による治療の失敗率や再入院率が減少する傾向がみられた。
SENECA derivation cohortには1309025人の患者が組み入れられ、感染症およびSepsis-3の条件を満たしたのは20189人であった。SENECA validation cohortでは、1119388人のうち43086人が組み入れられた。GenIMS cohortでは2320人のうち、583人が組み入れられた。3つのRCTでは4747人が該当した。
SENECA derivation cohortから4つの臨床病型(α、β、γ、δ)が導かれた。αは検査値異常が少なく、臓器障害の合併が少なかった。βは高齢で、慢性疾患を合併し、腎機能障害を伴う傾向があった。γは炎症反応が強く高熱があり、低アルブミン血症を伴っていた。δは血圧が低く、乳酸値が高値で、AST/ALTの高値を伴っていた。SENECA validation cohortやLatent class analysisでも同様の傾向であり、内的再現妥当性を確認できた。
4つの臨床病型は検査値および臨床経過との関連がみられた。検査値においては、IL-6, IL-10, TNFはγ、δで特に高値であった。腎機能障害はβ、δで多く、凝固異常はδで多かった。血管内皮障害はγで最も高かった。αで院内死亡率が最も低く、δの死亡率が高かった。ICU入室率はδで高かったが、人工呼吸日数と昇圧剤使用日数は一定した傾向はみられなかった。
過去のRCTにおいて、組み入れ患者に占める4つの臨床病型の頻度を変動させてシミュレーションを行うことで、結果へ影響することが示唆された。βやγの患者頻度の大幅な変化は結果に影響を与えなかったが、αとδの頻度が変化することで治療効果へ影響を与えた。ACCESSにおいてはδの頻度が増加するとエリトランが有害であるという結果がでる可能性が高まった。ProCESSにおいては、αが増加するとEGDTは有益に、δが増加するとEGDTは有害になる傾向が示唆された。
従来用いられていたSOFAやAPACHE3とそれぞれの臨床病型は相同のものではなかった。またδで腹腔内感染の頻度が多い傾向があるが、それぞれの臨床病型と感染部位との間には明らかな関連は指摘できなかった。

Implication
抗菌薬適正使用を促すためにアルゴリズムを作成し、教育介入を行うことで、EDでの抗菌薬使用内容、入院率、患者報告による治療成功率が改善する可能性が示された。内的妥当性の検討として、前後比較コホート研究というデザインをとっている点がまず指摘される。コホート研究であることで未測定、未調整の変数によってバイアスを受けうる。また1年間という観察期間において前後比較を行うことは少なくとも季節という変数が影響を与えうる。さらに研究者の施設を中心とした2施設での研究である点も効果量を大きく見積もる可能性がある。これらはクラスター化ランダム化比較試験を行うことで改善されると考えられる。また教育介入の一部にアルゴリズムのカードやEDに掲示するポスターなどが含まれることで、治療方針というoutcomeを決定する時点と介入を行っている時点が同時となっている可能性が考えられる。コホート研究であれば介入と結果の測定は時間差がある必要があり、介入の一部が同時であることによって横断研究の側面をもち、結果を過剰に見積もっているかもしれない。一方で今回のような教育介入やアルゴリズムなどに基づく介入の効果を検証する上で、横断的な一面をとることは介入の本質的な部分であり、必ずしも回避できるものではないとも考えらる。
一方で、教育介入という患者に対する侵襲が少ない介入を行うことで、抗菌薬投与の内容のみならず、患者報告による治療成績も向上させた可能性を示したことは重要であり、臨床現場でも本研究内での取り組みは参考になる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科