発症早期の心房細動に対するEmergency department(ED)における薬物的除細動・電気的除細動の比較

安房地域医療センター救急科と合同Journal Clubを開催しました。

Journal Title
Electrical versus pharmacological cardioversion for emergency department patients with acute atrial fibrillation (RAFF2):a partial factorial randomised trial .[ Ian G Stiell et al.Lancet, 395 (10221), 339-349 2020 Feb 1] PMID: 32007169

論文の要約
Acute AFはEDで扱うことの多い疾患である。心房細動治療の1つの手段となるリズムコントロールには、薬物的除細動・電気的除細動があるが、それらを比較して優位性を検討した研究は過去にはない。また、電気的除細動の際に用いるパッドの使用方法にも、前--後面の貼り方と前--側面の貼り方があるが、Acute AFにおいてどちらに貼るべきかという結論は出ていない。
この研究は2013年7月から2018年10月までの間、カナダの11のEDにおいて行なわれた2つのプロトコールによる一部実施要因無作為化比較試験である。患者は、EDを受診した発作性心房細動の再燃・弁膜症性心房細動を含む心房細動患者で、「発症3時間以上持続し介入が適切であると判断される症状を有しているもののなかで、発症48時間以内・発症7日以内で抗凝固療法開始済み・発症7日以内でTTEにて血栓ないことを確認済み」いずれかに該当するものを対象とした。なお、血行動態が不安定な症例やACSが関与すると思われる症例はいずれも除外した。
プロトコール1ではプロカインアミド15mg/kgを30分以上かけてIVする群(DRUG-SHOCK群)と、プラセボ薬をIVする群(SHOCK-ONLY群)に分け、IV後も洞調律に戻らない場合は、200J以上のDCを3回まで行うこととした。つまり、DRUG-SHOCK群ではプロカインアミドIV後にDCが最大3回まで施行され、SHOCK-ONLY群ではDCのみ最大3回が施行される。プロトコル2では、DCに至った患者に対して、パッドの貼り位置を前--後面、前--側面の2群にわけた。
プロトコル1では「洞調律化され30分維持できたかどうか」を主要評価項目 とした。副次評価項目にはEDからの転帰先・滞在時間・合併症・14日後の経過などが含まれた。プロトコル2も同様の洞調律化を主要評価項目に設定した。なお介入前に洞調律化したものも主要評価項目を満たしたものとした。
Acute AFでEDを受診した計11096名のうち10700名が除外項目に該当し、396名が該当者として研究に組み込まれた。両群の患者内訳は、男女比・症状持続時間・年齢などはいずれも大きな違いはなくバランスのとれた2群になった。
ITT解析の結果、プロトコル1の主要評価項目では洞調律化に至ったのはDRUG-SHOCK群96%、SHOCK-ONLY群92%(absolute difference 4%; 95% CI 0-9; p=0.07 )と有意差は認めなかった。副次評価項目ではDRUG-SHOCK群97%、SHOCK-ONLY群95%(absolute difference 2%; 95% CI -1-6; p=0.60)が帰宅可能であり両群に差はみられなかった。DRUG-SHOCK群患者の52%はプロカインアミドの静注開始後、平均23分で洞調律化した。14日後の経過ではいずれも脳梗塞発症者はなく、DRUG-SHOCK群、SHOCK-ONLY群いずれも95%が洞調律を維持していた。期間中EDを再診したものはDRUG-SHOCK群12%、SHOCK-ONLY群16%で、入院したものはDRUG-SHOCK群2%、SHOCK-ONLY群2%にすぎなかった。合併症については、DRUG-SHOCK群で低血圧が多かったがDRUG-SHOCK群26%、SHOCK-ONLY群3%その多くが一過性の低血圧であり重症化には至らなかった。プロトコル2においてもアウトカムは前--後面群で94%、前--側面群で92%(relative difference 1.01; 95% CI 0.95-1.09; p=0.68 )と有意差のない結果であった。 サブグループ解析では初回か否か・年齢・発症後経過で解析され、70歳以下の初回AF患者ではDRUG-SHOCKに割り当てられたほうが洞調律化が高いことが示された。

Implication
本研究はリズムコントロールにおいて、薬物的除細動と電気的除細動を比較した初めての研究になる。プロトコル1のアウトカムで有意差は示されなかったが、薬物的・電気的除細動はいずれもある程度安全で効果があることが示された。また、プロカインアミド静注で洞調律化すればDCが減り、不要な鎮静薬などの使用による合併症が避けられる可能性も示された。デザインもしっかりしており、予定のサンプルサイズを満たす症例を集め、データロスも少なく内的妥当性が高いと考えられるが、11096名という患者から明確な記載なく10700名が除外され、かつカナダ単独のEDで行われていること、プロカイアミド以外での薬剤の有効性が不明である点からは外的妥当性は劣る可能性がある。
今後、Patient Reported Outcomeを含む更なる追加検証や、レートコントロール戦略との比較が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科