ICU後神経筋合併症の5年間影響:前向き観察研究

Journal Title
Five-year impact of ICU-acquired neuromuscular complications: a prospective, observational study
Van Aerde, N., Meersseman, P., Debaveye, Y. et al. Intensive Care Med (2020). https://doi.org/10.1007/s00134-020-05927-5

論文の要約
"背景"
MRCスコア(Medical Research Council sum score) <48で診断されるICU-AW(IC-acquired weakness)、および神経筋機能障害の電気生理学的徴候は、しばしば重症疾患を罹患中に発生し、ICU入室時の合併症および1年死亡率に関連する。しかし、ICUで発症した神経筋機能障害は、1年を超える長期outcomeとの独立した関係の明確な証拠はない。リスクの層別化及び重症疾患の長期的負担の予防または軽減のために、ICU後神経筋合併が長期的有害outcomeに寄与する程度を定量化することは重要である。そこで、ICUで臨床的検査および神経筋の電気生理学検査を体系的受けた元ICU患者をICU入室から5年後までに追跡する大規模コホートを調査した。さらに、5年間の罹患率と死亡率を予測するために、ICU退院時のMRCスコアの最適な閾値を調査した。

"方法"
883人のEPaNIC患者(集中治療における早期経腸栄養VS晩期経腸栄養)(Clinicaltrials.gov:NCT00512122)を含む5年間の前向き追跡調査のサブ解析で、MRCスコアが記録されていたコホート(「MRCコホート」、N=600)、ICU入室後8日目±1日に電気生理学による複合筋活動電位(CMAP)が定量化されていたコホート(「CMAPコホート」、N = 689)、またはその両方がオーバラップしていたコホート(「MRC&CMAPコホート」、N = 415)を対象とした。
ICUで罹患した神経筋障害と5年死亡率、握力強度(HGF、%予測)、6分間歩行距離(6-MWD、%予測)および5年間の生活アンケート(PF-SF-36)におけるSF-36の身体機能との関連は未調整cox回帰分析で評価され、関連があった場合、事前設定した交絡因子で調整したCox回帰分析および線形回帰分析が行われた。5年間の結果を予測するためのICU退室時のMRCの最適な閾値は、マルチンゲール残差プロット(生存率)と散布図(罹患率)によって決定された。

"結果"
MRCスコアが記録されたコホートでは低いMRCスコア[HR、ポイントごとの増加:0.946(95%CI 0.928-0.968)、p = 0.001])が、CMAPが記録されたコホートではCMAP異常[HR: 1.568(95%CI 1.165-2.186)、p = 0.004]が5年死亡率の増加とそれぞれ独立した関連を示した。一方、 MRC&CMAPコホートでは、MRCスコアが独立で5年死亡率と関連[HR:0.956(95%CI 0.934-0.980)、p = 0.001]があったが、CMAP異常5年死亡率に独立した関連がみられなかった[HR:1.478(95%CI 0.875-2.838)、p = 0.088]。205人の生存者のうち、低MRCスコアは低HGF [0.866(95%CI 0.237-1.527)、p = 0.004]、低6-MWD [105.1(95%CI 12.1-212.9)、p = 0.043]および低PF- SF-36 [-0.119(95%CI-0.186〜-0.057)、p = 0.002]と独立した関連を持つ一方、異常なCMAPはこれらの罹患率のエンドポイントと相関しなかった。探索的分析では、MRC?55が長期的な罹患率と死亡率の低下を最もよく予測できることを示唆した。 MRC?55及びCMAP異常が、5年死亡率と独立した関連を持った。

Implication
近年ICU退室後の死亡率が高く、ICU-AWが1年以内の死亡率と大きく関連していることが示されている。しかし、1年を超える予後についてはARDS生存患者についての研究報告のみだった。この研究ではベルギーの7ICUに入室した患者を対象にICU-AWと関連のあるMRCスコア及びCMAP異常と5年死亡率の関連が評価された結果、それぞれ独立した関連が示された。
当研究を批判的吟味すると、MRCスコア及びCMAP異常と長期死亡率との独立した関連を調べるには大規模RCTの良質なデータを使用しており、観察期間が長く脱落も少なく、内的妥当性が高い。測定も理学療法士4人のみが行ったため、検者間一致率が出されていないが測定biasは低いと推測される。しかし、対象は重症例とはいえ、RCTのinclusion criteria及びexclusion criteriaが適応され、かつ8日目まで死亡した症例は除外されたためselection biasが強く懸念される。外的妥当性として、当研究の対象がベルギー1国のICU患者であるためかBMI及び年齢の中間値がそれぞれ25及び60と特筆される点やICU入室基準及び基礎疾患がはっきりしない点が一般化の可能性を損ねている。
以上のようなLimitationはあるものの、本研究はICU-AWの長期予後を報告した貴重な研究である。本研究結果は先のARDS生存患者で報告されたICU後の長期死亡率と近い結果であり、ICU-AWが長期予後に強く関連していることを示唆するものである。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科