てんかん重積での3種類の抗てんかん薬の薬剤選択に関するRCT

【論文】
Randomized Trial of Three Anticonvulsant Medications for Status Epilepticus
N Engl J Med 2019; 381:2103-2113、DOI: 10.1056/NEJMoa1905795
【Reviewer】
Satoru R OKAZAKI

【内容】
・背景
これまでに、てんかん重積状態の患者に対してのベンゾジアゼピンの有効性に関しては多数のRCTがありガイドライン上でも第一選択となっていた。しかし、1/3の症例はベンゾジアゼピン抵抗性であり、その場合に用いる抗てんかん薬については研究が乏しかった。一般的に抗てんかん薬は特有の副作用や複雑な薬物相互作用を持つが、救急セッティングにおける有効性や副作用についてはわかっていなかった。

・方法
本研究は、てんかん重積状態の患者(小児・成人)に対して、ベンゾジアゼピン抵抗性であった場合、次に用いる薬剤は何が最も適切かを検討したアメリカの57の救急外来で行われた適応的デザイン・二重盲検化RCTである。患者の組入基準としては、2歳以上のベンゾジアゼピン抵抗性の患者であり、外傷、血糖異常、心停止、低酸素脳症による症候性発作は除外された。
各群に割り当てられた患者はLevetiracetam(60mg/kg)もしくはfosphenytoin(20mgPE(Phenytoin等量)/kg)、valproate(40mg/kg)を投与された。各薬剤はいずれも外見からは判別不可能であり、投与時間も一定に調整された。主要評価項目は薬剤の追加投与なく試験薬投与60分後時点の明らかな発作の停止と意識レベルの改善とした。また、同時に試験薬投与60分以内の致死的な低血圧や不整脈の複合アウトカムである安全性評価項目も評価した。解析はITT解析を用いた。適宜中間解析時にベイジアンアダプティブデザインを適応し各群の事後確率を算出し、その後の割付割合を調整した。事後確率が最大サンプルサイズにおける仮定した治療効果15%(65%vs50%)に達する確率が97.5%以上もしくは5%以下を優越性、無益性のため試験中止基準とした。

・結果
結果としては、384人の患者が組み入れられた時点で、事前規定の無益性基準を満たしたため試験は中止された。患者背景は各群で偏りはなかったものの、27%の症例で組入基準違反が認められた。また、男性は55%であり、43%が黒人でヒスパニックは16%、であった。年齢別の内訳としては、小児(17歳以下)は39%であり、48%が成年(18-65歳)、13%が高齢者(65歳以上)であった。最終診断としててんかん重積状態は87%、10%が心因性てんかん発作であった。てんかん重積状態の原疾患としては、てんかん(怠薬も含む)が47%、中毒や代謝性を含む症候性が32%であった。主要評価項目では、Levetiracetam : Fosphenytoin : Valproate = 68人(47%, 96%CI=39-55) : 53人(45%, 36-54) : 56人(46%, 38-55)であり、有意差は認めなかった。また、安全性評価ではFosphenytoinでその他の2群と比較して低血圧と気管挿管の割合多い傾向にあり、Levetiracetamで死亡が多い傾向にあったが、3群間で有意差は認めなかった。

・著者の見解
本研究の長所として、400人と大規模研究であり十分な検出力がある点や、すべての試験薬を体重に合わせた投与量を用いている点、同じサンプルサイズの固定デザインよりも検出力の高いアダプティブデザインを用いた点がある。一方、限界としていくつかの症例で盲検化の解除をする必要があった点や、10%が心因性非てんかん発作であった点、止痙の判断を脳波ではなく臨床診断とされた点、24時間以降に生じた重大ではない合併症に関しては不十分である可能性、多くの患者でBZPの投与量に関する組入基準違反があった点などがある。
以上より、著者らはLevetiracetam, Fosphenytoin, Valproateはベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態の患者に対して約50%の有効性をもち、いずれも有効性や安全性の面で優位な差は認めなかったと結論している。

【Implication】
本研究は成人を含む初めてのベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態に対する第2フェーズの治療薬の有効性・安全性をhead-to-headで検討した大規模RCTである。本研究の特徴として、ベイズ統計を用いた統計解析と隠蔽化やブラインドを適切に行っているなど洗練された研究デザインがある。そのため、高い内的妥当性を保持しており、結果の妥当性は高い。その証左として2019年に報告されたphenytoinとLevetiracetamを比較した小児での大規模RCT(ConSEPT、EcLiPSE)でも、肉眼的な痙攣停止の割合はともに5−6割割程度と概ね結果が一致している。成人の先行研究に関しては、22の研究を含むメタアナリシスがあるが、LevetiracetamやValproateは痙攣停止割合は本研究よりも高かったが(それぞれ68.5%、75.7%)、phenytoinの痙攣停止割合は本研究と同等であり(50.2%)、本研究結果と大きなずれはない。外的妥当性について、本研究はアメリカ1カ国での試験ではあるが、主要評価項目と年齢・性別・人種等の交互作用は認めなかったため、広い患者へ適応できる可能性がある。安全性に関しては、中間解析で早期中断されてしまったため検出力不足である可能性が高い。 

では、実臨床で本研究をどのように適応するべきであろうか。以前より、抗てんかん薬は特有の副作用や複雑な薬物相互作用を持つことが知られている。そのため、既往歴、心血管系リスク、内服薬との相互作用に十分注意して使用する必要がある。日本で使用できる薬剤の中で、Fosphenytoinは血圧低下や不整脈、重症薬疹などの副作用が知られ、Levetiracetamはそのような重篤な副作用や薬物相互作用が少ないといわれていた。? 救急医療の現場では、てんかん重積状態の患者の詳細な病歴や既往歴、内服薬、心血管リスクを聴取することは困難であることが多いことから、抗てんかん薬の有効性だけでなく安全面での検証も重要である。
本研究ではFosphenytoin、Levetiracetamの効果は同等であり、副作用に関しても早期中断による検出力不足の可能性はあるものの、先にあげたRCT同様に有意な差は認めなかった。
以上より、実臨床においてはベンゾジアゼピン抵抗性のてんかん重積状態患者に対してはFosphenytoinだけでなくLevetiracetamの使用も考慮されると考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科