COPD急性増悪予防のためのメトプロロールの使用について

・Journal Title
Metoprolol for the Prevention of Acute Exacerbations of COPD
NEJM, Published:October 20, 2019
M.T. Dransfield, H. Voelker, S.P. Bhatt, K. Brenner, R. Casaburi, C.E. Come, J.A.D. Cooper, G.J. Criner, J.L. Curtis, M.L.K. Han, U. Hatipoğlu, E.S. Helgeson, V.V. Jain, R. Kalhan, D. Kaminsky, R. Kaner, K.M. Kunisaki, A.A. Lambert, M.R. Lammi, S. Lindberg, B.J. Make, F.J. Martinez, C. McEvoy, R.J. Panos, R.M. Reed, P.D. Scanlon, F.C. Sciurba, A. Smith, P.S. Sriram, W.W. Stringer, J.A. Weingarten, J.M. Wells, E. Westfall, S.C. Lazarus, and J.E. Connett, for the BLOCK COPD Trial Group

・論文の要約
<背景>
COPDの急性増悪・重症化は潜在する心血管疾患がトリガーとなっている可能性がある。心疾患を合併している患者ではβ遮断薬の使用によりCOPDの増悪・死亡率の低下に繋がることが複数の観察研究で示唆され、いくつかの研究では心疾患の合併がなくてもβ遮断薬の効果を示唆している。しかし、これらの研究はすべて観察研究であり、ランダム化比較試験で証明されていない。本研究では、心疾患に対するβブロッカーの適応のないハイリスクCOPD患者を対象に「メトプロロールの使用は肺機能への副作用なく中等症から重症のCOPDの増悪リスクを下げ、6分間歩行テストの結果・呼吸困難症状・ QOLを改善する」という仮説を検証した。
<方法>
本研究は増悪リスクが高い40-85歳のCOPD患者でメトプロロールとプラセボ群で比較した米国26施設2重盲検前向きランダム化比較試験である。対象患者は40-85歳のCOPD患者でGOLD分類に従い中等度の気流制限があり、以下の増悪リスクのうち少なくとも?項目を満たす患者とした。?呼吸器症状に対しステロイドまたは抗生剤の全身投与を必要とした者、?COPDの増悪で救急外来受診または入院を要した者、?COPDの治療のために在宅酸素の処方を受けた者。組入基準は安静時心拍数 65-120/分と安静時収縮期血圧100mmHg以上の両項目を満たす者とされた。除外基準として?すでにβ遮断薬の内服指示を受けている者、?36ヶ月以内の心筋梗塞 or 血行再建術の既往がある人、?EF 40%未満とした。
追跡調査は内服開始時、42日、112日目、224日目、336日目で行われ、薬剤離脱後は378日目までモニターされた。Primary Outcomeは「治療期間中で最初にCOPDの増悪を発症るすまでの中央時間」とし、増悪の重症度はMild/Moderate/Severe/Very Severeの4段階に細分化され評価された。Secondary Outcomesは増悪率、死亡率、1秒量の変化、6分間歩行試験距離、呼吸困難、健康関連QOLを評価した。呼吸困難の評価はSan Diego Shortness of Breath Questionnaire(SOBQ)、健康関連QOLの評価はSt. George's Respiratory Questionnaireのスコア、COPD評価テスト (CAT)で評価された。
プラセボ群は65%が試験開始から1年以内に悪化し、メトプロロールがこのリスクを55%に低下させると推定された。サンプルサイズはパワー 90%、αレベル0.05で設定し、フォローアップ喪失が12%と仮定され1028人の患者登録が必要と計算された。Primary AnalysisはLog-ran Testで両群のKaplan-Meier生存曲線を比較し、Secondary AnalysisはCox比較ハザードモデルが使用された。
<結果>
2016年5月?2019年3月の期間で患者が登録された。677人のうちInclusion/Exclusion Criteriaに従い145人が研究対象外とされ、532人がメトプロロール群268人、プラセボ群264人にランダム化された。最終的にはメトプロロール群で175人(65%)、プラセボ群で164人(62%)が364日目まで追跡された。Primary Outcome の「治療期間中で最初にCOPDの増悪を発症るすまでの中央時間」は、メトプロロール群で202日(95%信頼区間 162〜282)、プラセボ群でプラセボ群222日(95%信頼区間189〜295)(Hazard Ratio1.05(95%信頼区間0.84?1.32)p=0.66)と両群間に有意差はみとめられなかった。しかしSecondary Outcomeではメトプロロール群で増悪率、死亡率、入院率のいずれにおいても高い結果となった。また、CAT、SOBQにおけるベースラインからの変化もメトプロロール群で高く、呼吸困難症状の増悪および症状のコントロールが悪いことが示唆された。1秒量、6分間歩行距離、St. George's Respiratory Questionnaire Scoreにおいては両群間で有意差はみとめなかった。また、内服の中断はメトプロロール群でより多く見られ(11.2%対6.1%)、中断の理由で最も多く認めたのは呼吸器症状の出現であった。その他に認めた中断理由としては、心臓イベント、薬剤不適合、アレルギー症状であった。内服コンプライアンスにグループ間差はなかった。
<批判的吟味>
内的妥当性:サンプル数は1028人必要であったがランダム化をされたのは532人であり、十分なサンプル数ではない。?ランダム化後の時点でステロイド/抗生剤使用歴のある人、救急外来・入院歴のある人の割合はメトプロロール群で高く、メトプロロール群に増悪リスクの高い人が多かった可能性がある。
外的妥当性:米国一国での研究であり、他国とは心疾患などの背景因子が異なる可能性がある。

・Implication
本研究では、心疾患(心筋梗塞、HFrEF)に対してβブロッカーの適応のないハイリスクCOPD患者を対象にメトプロロールの有用性が検証された。多施設大規模研究でありデザインもしっかりしている。事前設定された中止基準に照らし、中間解析でメトプロロールの優位性が示されないと判断され、試験が途中で終了されている。以上から当該患者において主要評価項目で期待されたCOPDの増悪を予防する効果はメトプロロールにはないといえそうである。一方、副次評価項目においてtype?エラーの可能性があるものの、重症な増悪に至る割合や死亡率・入院率がメトプロロール群で多かったことは軽視できない結果である。実臨床においてはCOPDのリスクと心疾患のベネフィットを考慮して個別に対応するしかない。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科