ICUの人工呼吸中の酸素制限療法について

安房地域医療センターとの合同JournalClubでした。
救急科センター長の藤江先生がまとめてくださいました。

[ Journal Title ]
Conservative Oxygen Therapy during mechanical ventilation in ICU

[ 論文の要約 ]
<背景>
心筋梗塞や蘇生後脳症など一部の疾患では高酸素に晒されることによる有害事象が報告されている。集中治療室(ICU)において人工呼吸中の患者は高酸素状態に晒されている時間が長くなる傾向があり、後ろ向きにみた研究では高酸素投与群では死亡率増加や人工呼吸器離脱期間が減少してしまうことが示唆される。単施設のランダム化比較試験でも同様の結果が出ているものもあり、多施設前向きでの検証を要する。
<方法>
オーストラリアとニュージーランドの21のICUでの多施設研究である。18歳以上のICUで人工呼吸器装着患者を組み入れ基準として、一酸化炭素中毒などの高酸素療法が必要な患者、慢性閉塞性肺疾患・パラコート中毒などの高酸素療法を避ける必要がある患者、妊娠、救命の可能性がない患者、慢性疾患から90日以上生命予後が期待できない患者、急性薬物中毒患者、人工呼吸器依存患者、同意が得られない患者、ほかの研究もしくは本研究にすでに参加している患者を除外基準とした。100名のパイロット研究を行ったのち、除外基準に変更が行われ、残り900名の症例を登録した。酸素制限療法群では、経皮的酸素飽和度(SpO2)が97%を超えるときに吸入酸素濃度(FiO2)を0.1ずつ下げ、通常治療群では、上限の設定はしなかった。下限は両群ともに91%を目安に臨床医に任せる方針とした。Primary Outcomeは28日後の人工呼吸器離脱期間(※死亡の場合は0日として換算)、Secondary Outcomeは90日/180日の死亡、生存期間、180日での雇用率/認知機能/Quality Of Lifeの評価とした。
過去の研究から通常の酸素療法では人工呼吸器離脱期間は16.4(±11.3)日で両側検定α=0.05、power=90%で28日後の人工呼吸器離脱期間に2.6日の絶対差を検出するためにサンプルサイズ推定を行い、Ranked Based testのために15%のサンプルサイズの増加と脱落や中間解析のために80人のサンプルサイズの増加を考慮し1000人を目標とするサンプルサイズとした。Intension To Treat解析を行い、欠損データのimputationは行わないこととした。
<結果>
2015年9月から2018年5月までに3366名の患者が組み入れ基準を満たした。そのうち除外基準に当てはまった856名と基準を満たしたが組み入れ期間を逸してしまった1510名の患者が除外され、1000名が両群に割付された。499名が酸素制限療法群、501名が通常治療群に割り付けられ、最終的にそれぞれ484名と481名が研究に参加することとなった。
Primary Outcomeは-0.3日[-2.1 to 1.6(95%信頼区間)]、Secondary Outcomeにおいても有意差を認めなかった。酸素投与時間はodds ratio 0.46[0.45 to 0.47(95%信頼区間)]と酸素制限療法群では短くなる傾向があった。Post-hoc解析ではSubgroupで低酸素脳症が疑われる層での層別化解析で人工呼吸器離脱期間の酸素制限療法群と通常酸素療法群の絶対差は21.1日[10.4 to 28.0(95%信頼区間)]で酸素制限療法群が人工呼吸器離脱期間が長くなる傾向がみられた。
<批判的吟味>
内的妥当性をあげていく。まずは1510例もの症例が組み入れられなかった理由が明確でないことは、組み入れ時に評価者が症例の選択を行ってしまう選択バイアスが生じている可能性を棄却できない。また同様にクラスター差を加味していないことも施設間での治療や選択基準の差が生じているかもしれない。またSecondary Outcomeである雇用率などは割付後に操作できるため二重盲検が不可能な今回のデザインでは評価の信頼度は落ちてしまうであろう。また結果として酸素制限療法に差が出なかったNegative studyとなった要因として今までのStudyと比べて上限酸素基準が高いこと(過去の研究ではSpO2 94%など)も差が出にくい要因であろう。
外的妥当性としては多施設研究であること、プロトコール記載が十分にされていること、今までのランダム比較試験よりサンプル数が多いことが利点としてあげられるが、デザイン上二重盲検できないこと、地域がオーストラリア/ニュージーランドと日本と異なることが本欠点となりうる。

[ Implication ]
ICUにおける人工呼吸器患者での多施設ランダム比較試験を行ったことは評価に値するが、今回の研究を持って酸素制限療法の有用性は示せなかったが酸素投与時間が減少するため、酸素投与に関わるコストは削減される可能性があるかもしれない。
層別化解析での低酸素脳症における酸素制限療法は過去の研究の流れから蘇生後脳症には有効と言われており、個別でのランダム化比較試験での追試研究が望まれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科