救急外来において静脈ライン留置困難が予測される小児に対する超音波ガイドの利用は、留置の初回試行成功率を改善するか。:ランダム化比較試験

[ Journal Title ]
Ultrasonographic Guidance to Improve First-Attempt Success in Children With Predicted Difficult Intravenous Access in the Emergency Department: A Randomized Controlled Trial.
Annals of Emergency Medicine. 2019 Jul;74(1):19-27 PMID: 31126618

[論文の要約]
 静脈ライン留置が困難であると予測される小児に対し、超音波ガイド下静脈ライン留置によって、静初回試行の成功率が改善するかを検討した。留置の難易度を考慮しない先行研究では、超音波ガイド下での静脈ライン留置と従来の留置法に有意差は示されなかった。一方で、小規模RCTのメタ解析があり、超音波ガイドによる試行回数の減少が指摘されていた。本研究では、従来の方法で50%の成功率と予測され、超音波ガイドによって成功率が20%向上すと仮説を立てた。
 期間は2014年6月から2016年12月までで、アメリカの都市部の小児病院の三次救急外来の単施設で行われた。前向きのランダム化比較試験だった。
 静脈ラインを必要である場合が多い主訴でスクリーニングし、さらにa difficult intravenous access scoreに従って、静脈ライン留置の困難が予測される小児を登録した。対象患者は、3歳未満と3歳以上で層別化後、静脈ライン留置の初回試行において従来の留置法または超音波ガイド下静脈ライン留置法のどちらかの群にランダム化された。
 primary outcomeは、初回試行の成功率であり、secondary outcomeにはライン留置の試行回数、静脈ライン留置までの時間(ランダム化から、留置後のフラッシュまでの時間)、静脈ラインの留置期間(フラッシュから、合併症発生によるライン抜去までの期間)、合併症の内容、両親/保護者の満足度(1〜10で評価)が含まれた。
 初回試行の成功率は、対照群の45.8%と比較して、超音波ガイド群では85.4%と改善を認めた。試行回数は、対照群の中央値が2回に対して、超音波ガイド群の中央値は1と少なかった。静脈ライン留置までの時間は、対照群の中央値が28分であるのに対し、超音波ガイド群の中央値は14分と短縮を認めた。静脈ラインの留置期間についてはKaplan-Meier分析を行い、超音波ガイド群の中央値が7.3日であり、対照群の2.3日と比較して、長く生存することが示された。グループ間の合併症の内容に差はなかった。両親/保護者の満足度は、超音波ガイド群の患児の両親/保護者で中央値10であり、対照群では8だった。

[Implication]
 本研究では、超音波ガイド下静脈ライン留置によって、初回試行成功率が改善された。手技としての難易度は比較的低く、臨床に応用しやすいと考えられる。術者の経験による成功率が大きく異なったが、経験の浅いフェローでさえも、超音波ガイドを使用することで、対照群の成功率(46%)を上回る成功率(74%)を示した。著者らの結論として、静脈ライン留置の困難が予測される小児における超音波ガイド下静脈ライン留置は、指導を受けた医療提供者によって実施された場合、初回試行の成功率と静脈ラインの留置期間を改善させ、研究を完了する前に院内の標準試行法として導入された。
 批判的吟味に移る。まずは、選択バイアスについて考える。留置困難が予想されない小児は事前に除外されているが、看護師がスコアリングで難易度が高いと予想される患者を全て報告しなかった可能性があり選択バイアスを生じた可能性がある。57人が参加を拒否し登録されず、これが恣意的に除外された可能性は残るが、その割合は3.0%と小さく影響は少ない。データ収集がされてなかったのは1人に留まり、恣意的に除外したとは考えにくい。割付は封筒法が用いられている。
情報バイアスについて考える。盲検化は不可能であり、留置にかかる時間の短縮や両親/保護者の満足度の向上に影響を与えた可能性がある。primary outcomeは留置の成功率であるが、留置成功の評価基準は明確ではなく、主観的に評価された可能性がある。
交絡について考える。ブロックランダム化を行なっており、群間の人数に偏りはなく、患者の特性は均質だった。ラインの種類の選択や留置部位の選択は規定しておらず、結果に影響を及ぼした可能性がある。また、局所麻酔の使用は術者の判断に委ねられたため、結果に影響を及ぼした可能性がある。対象群の術者はすべて看護師であり、術者の職種や経験数についても均質にすべきだったと考える。しかし、臨床の現場に照らし合わせれば、術者が異なることも許容可能と考える。
 以上に示したように、本研究には結果を歪めかねない多くのバイアスが存在する。特に盲検化ができなかった点において、バイアスが生じた可能性は大いにある。このバイアスを解消するためには、単施設での研究ではなく、多施設共同でのcluster randomized trialでの再度の検証が必要だろう。静脈ライン留置困難が予想される小児に対して、超音波ガイドが初回試行成功率を改善させる効果に期待が持てるが、今後の研究を待ち、導入を慎重に検討したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科