ARDS患者の肺形態により個別化した呼吸管理は死亡率を改善させるか

[ Journal Title ]
Personalised mechanical ventilation tailored to lung morphology versus low positive end-expiratory pressure for patients with acute respiratory distress syndrome in France (the LIVE study): a multicentre, single-blind, randomised controlled trial
Lancet Respir Med. 2019 Aug 6.
PMID 31399381

[ 論文の要約 ]
低一回換気量、腹臥位が人工呼吸器関連肺疾患を減らすと報告されているが、PEEPと肺胞リクルートメント手技の有効性は不明である。ARDSでは肺形態により病態が異なるため、肺形態が呼吸管理に影響する可能性がある。
non-focal ARDSとfocal ARDSは病態が異なるとされ、non focal ARDSの方が死亡率が高い。過去研究によると高PEEPと肺胞リクルートメントがfocal ARDSよりnon focal ARDSの方に適しているとの病態生理学的報告がある。また、focal ARDSの肺容量はnon focal ARDSより多いため一回換気量を多くすることで無気肺や炎症を軽減できる可能性があり、 PEEPと肺胞リクルートメント手技に反応しないfocal ARDSにおいて、ガス交換の面では腹臥位がより効果的な可能性がある。
本研究では発症から12時間以内のmoderate-severe ARDS患者の肺病変に応じた呼吸管理は、既存のlow-PEEP戦略と比較して生存率を改善するかを検討した。
研究デザインは、期間が2014年6月12日から2017年2月2日 で、場所はフランスの20の大学病院と非大学病院のICU 、多施設ランダム化研究で解析者のみマスキングされている。Inclusion criteriaは18歳以上の12時間以内にベルリン基準により診断されたmoderate-severeARDSで、exclusion criteriaは30日以内に連続7日以上人工呼吸器使用、過去一ヶ月以内にARDSと診断、BMI>40kg/m2、酸素投与または呼吸補助を必要とする慢性呼吸器疾患、patients under tutelageなどがある。primary outcomeはday90の死亡率である。
ARDSと診断された1080人のうち、660人が除外され、組み入れられた420人のうち、対照群が213人、介入群が207人に割り付けられた。 Primary Outcomeについては、ITT解析では介入群27%、対照群27% (HR 0.96; 95% CI 0.66-1.4; p=0.84)、Per Protocolでは介入群17%、対照群27%、(HR 0.6; 95% CI 0.36-0.99; p=0.045)であった。

[ Implication ]
本研究はARDSの肺形態に応じて個別化した呼吸管理による死亡率を調べた初の研究であった。著者らはmoderate-severe ARDSに対して肺形態の初期分類による人工呼吸器設定は既存の低換気戦略と比較して死亡率を改善しないと結論づけている。有意差がなかった理由としては、以下の3点を考えた。
まず、ARDSと診断された1080人の患者のうち660人が除外されているが、そのうち116人がinvestigator decisionにより除外されている。除外理由は記載されていないが重症患者が除外されている可能性があり、群間差が出にくいと考えられる。第二に、肺形態を分類するときに20%が誤分類されている。誤分類群では死亡率が高かったが、per protocol解析の正分類群では介入群の生存率が有意に高かった。誤分類により介入群の利点が抑えられ、群間差が生じない可能性がある。第三に、サンプルサイズ計算で仮定された死亡率より実際の死亡率は低く、より多くのサンプルが必要だったと考えられる。
初期評価での誤分類が多いことは過去研究からは予期していなかった。原因としては、肺形態を初期評価するスタッフの訓練不足、講習の徹底がなされていないこと、確立された講習がないこと、CT使用率が30%程度であったことが挙げられる。肺エコーや電気インピーダンストモグラフィなども補助的手段を使用するなど、肺形態の診断アルゴリズムの確立が必要と考えられる。
今回の研究結果は我々のARDS診療には影響しないと考えた。肺形態が正しく分類されれば、moderate-severe ARDSに対して肺形態の初期分類による人工呼吸器設定は死亡率を改善する可能性はある。肺形態診断アルゴリズムの確立が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科