CRPガイドに基づくCOPD増悪時の抗生剤使用

【 Journal Title 】
C-Reactive Protein Testing to Guide Antibiotic Prescribing for COPD Exacerbations
N Engl J Med. 2019 July 11. PMID: 31291514

【 論文の要約 】
<Background>
6.4%のアメリカ人、2%のイギリス人がCOPDと診断されており、毎年半分のCOPD患者が治療を要する急性増悪をきたしている。欧米ではCOPD急性増悪の患者の8割に対して、抗生剤が処方されているが、その2割が非感染性のものである。また、COPD急性増悪の患者に対して、抗生剤治療とプラセボ組で臨床治癒率を比較したRCTでは、CRP<40mg/Lの患者では有意差がないという研究がある。
<Research question>
Primary careの場で、軽症のCOPD急性増悪の患者に対してCRP測定は抗生剤の使用を安全に減らすことができるか
<Methods>
本研究は、イギリス国内の86施設で行われた、多施設共同、非盲検ランダム化比較試験である。対象は、40歳以上の男女ですでにCOPDと診断され、COPD急性増悪をきたした患者。急性増悪の判断基準は、Athonisen criteria(呼吸困難の増悪、痰量の増加、膿性痰の増加)を1つ以上と満たし、かつ症状持続が24時間から21日以内であるとした。COPD急性増悪の患者に対して毎回の診察でCRPを測定し、抗生剤使用の参考にして治療を行う群と、CRPを測定せずに通常通りの治療を行う群の、2群に割り付けた。参考基準は、CRP<20mg/Lで抗生剤使用を推奨しない、20〜40mg/Lは膿性痰などの臨床症状を基に判断、CRP>40mg/Lで抗生剤使用を推奨するというものである。CRP測定値を参考にすることで、QOLの低下がなく抗生剤使用を削減できることを証明するため、有効性に関する主要評価項目は2つ設定された。1つ目が試験開始4週間以内の、COPD増悪に対する抗生剤の使用率、2つ目が2週間時点での電話調査によるCCQ(Clinical COPD Questionnaire)の点数である。
<Results>
適正であると判断された1319人中、635人が2群に1:1にランダムに割り付けられた。抗生剤使用に関しては、CRP参考組が57.0%(263人中150人)、通常治療組が77.4%(274人中212人)、Adjusted Odd Ratio 0.31(95%信頼区間,CI:0.20〜0.47、p<0.001)であり、CRP参考組の抗生剤使用率が低かった。CCQに関しては、CRP参考組のCCQ平均値が2.6、通常治療組が2.8、区間差ー0.19(片側検定、90%信頼区間、Cl:ー0.33〜ー0.05)であり、CRP参考組のQOLは通常治療組に劣らない結果となった。
<Conclusion>
入院の必要がない軽症のCOPD急性増悪に対して、臨床症状にCRP測定値を加味することで、QOLを下げずに抗生剤の使用を20%削減することができる。

【 Implication 】
本研究はCOPD急性増悪の抗生剤治療を削減する指標として、CRPの臨床的有用性について吟味した初めてのRCTである。CRPは測定が簡便且つ安価であり、今後の研究、臨床への応用がしやすい指標である。また、主要有効項目に患者のQOL(CCQ)を採用しており、臨床に則した実践的な試験である。しかし、いくつか問題点が残されている。本研究で使用されたAnthonisen criteriaによる重症度分類の使い方が不明瞭であり、結果の解釈に難渋した。また、サンプルサイズ計算において、2つの主要有効項目が互いに独立でないという理由から、650人に設定した経緯が不明瞭であり、どのように適切と判断された1319人から650人を抽出したかの記述もみられない。更に、家庭医による初期診療が一般的であるイギリス国内で行われた試験であるため、外的妥当性の吟味に関して、今後さらなる国や地域での試験展開が必要である。最後に、本研究でのCRPの位置づけはあくまで参照値であり、抗生剤使用の判断は臨床診断に則すべきである。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科