無症候性腹部大動脈瘤に対し開腹術は血管内修復術に比べ長期間の予後の差はあるか

【Journal Title】
Open versus Endovascular Repair of Abdominal Aortic Aneurysm. The New England journal of medicine. 2019 05 30;380(22);2126-2135. doi: 10.1056/NEJMoa1715955.

【論文の要約】
・Introduction
腹部大動脈瘤の選択的血管内修復は破裂や死亡を予防する事が知られている。先行試験では血管内修復術は開腹術に比べ周術期死亡率が低いが、数年後の血管内修復術をうけた患者の死亡率が高いことが示された。
the United Kingdom Endovascular Aneurysm Repair Trial 1 [EVAR-1] とthe Dutch Randomized Endovascular Aneurysm Management [DREAM] という2つの欧州で行われた試験では、血管内治療のほうが開腹手術よりも再治療が多いなど長期転帰が不良であることが示唆されていた。そこで無症候性腹部大動脈瘤に対し開腹術は血管内修復術に比べ長期間の予後の差を観察するためにデザインされたのがこの研究である。
・Methods
本研究は、USAの42施設の退役軍人医療センターで行われた、他施設、無作為比較試験で、期間は2002年10月15日〜2016年12月31日の14年間であった。
対象は、無症候性腹部大動脈瘤をもつ49歳以上の男性で、開腹術と血管内修復術の2群に割り付けた。
・Result
総死亡は、血管内治療群302例(68.0%)、開腹手術群306例(70.0%)であり(HR:0.96、95%信頼区間:0.82〜1.13)統計学的に有意差はなかった。
若い(70>)患者群では血管内修復の方が長期生存率が高くなり、逆に高齢(>70)の群は開腹手術の方が長期生存率は高くなった。
慢性閉塞性肺疾患は、血管内修復群よりも開放修復群の方が50%多く死亡した。
・Conclusion
無症候性腹部大動脈瘤患者に対して開腹修復術と選択的血管内修復術をうけた患者群間において療後長期間の予後に有意差はなかった。

【Implication】
血管内治療は周術期生存率の優位性をもたらしたが、術後数年後の血管内修復群における死亡の増加により開腹術に対する完全な優位性は示せなくなった。
開腹か血管内修復かは患者の年齢やCOPD等の併存症や状態を見極め選択されるべきである。何故欧州の研究と差が出たか欧州の研究より後発で技術や機器の性能が向上したことや、経験の浅いことによる死亡率の増加を回避するためにOVER試験では、手順を実施する治験担当医師に特定のスキル、ならびに機器の訓練および試験に関連した訓練をしたことが理由に考えられる。また、血管内修復ではEVAR-1やDREAM試験よりも放射線被爆量が少なく癌による死亡率を下げた可能性がある。
米国での施設間の成績の差は明確に記載されていなかったが、開胸術には術者による技術の差が出そうであると推測した。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科