敗血症における新たな臨床病型の導出、検証と臨床への適応

[ Journal Title ]
Derivation, Validation, and Potential Treatment Implications of Novel Clinical Phenotypes for Sepsis
JAMA.2019 May 19 PMID:31104070

[論文の要約]
"背景"
敗血症における宿主免疫反応などの病態の理解は進んでいるが、実際に敗血症を対象とした新たな治療の創出はほとんど成功していない。敗血症という疾患概念の異質性が高いことが敗血症治療の創出が難しい一因かもしれない。そのため、敗血症をいくつかの一定の特徴をもつ新たな臨床病型に分類し、検査値、臨床経過や過去の研究結果とのそれぞれの臨床病型の関連を検証することがこの研究の目的である。

"方法"
データは、SENECA derivation cohort(2010-2012年のUPMCヘルスケアシステムの患者電子記録から抽出した、Sepsis-3の条件を満たす患者), SENCA validation cohort(前述同様の2013-2014年にえられたもの)、GenIMS(アメリカで得られた重症市中肺炎の多施設前向きコホート)の3つの観察研究コホートと、ACCESS, PROWESS, ProCESSの3つのRCTを利用した。GenIMSと3つのRCTについては敗血症の定義としてSepsis-2を利用していた。臨床病型を導くための変数として、患者背景、バイタルサイン、炎症反応、臓器障害などを反映する臨床現場で通常得られる29変数を選択した。導かれた臨床病型に対して、評価する検査値として免疫系、炎症反応、内皮細胞障害、凝固異常、臓器障害を反映するものを選択した。評価する予後としては28日死亡率をPrimary clinical outcomeとし、ICU入室やカテコラミン使用日数、人工呼吸器使用日数を選択した。1.SENECA derivation cohortを用いて臨床病型を導出した。まず上記29変数を用いて患者の分布を分析し、患者が連続的に分布していることがわかった(OPTICSという密度ベースのクラスター分析手法を使用した)。 そのため、離散的な分布を示す集団を分類する(例:リンゴとオレンジを分類する)方法と連続的な分布を示す集団を分類する(例:ピザを各ピースで切り分ける)方法のうち、後者が適切であると判断し、その手法の1つであるconsensus k means clusteringを選択しclusteringをおこなった。SENECA validation cohortでも同様の臨床病型の抽出が再現できるかを内部検証した。またLatent class analysisという異なるclustering手法によってSENECA derivation cohortを分析し、同様の臨床病型の抽出が再現できるか検証した。外部検証には、GenIMSを用いた。2.次にそれぞれの臨床病型の検査値、臨床経過との関連を検討した。これにはΧ2検定、Log-rank testを用いた。3.最後に過去の3つのRCTに対する臨床病型の頻度分布がそれぞれのPrimary outcomeである28日死亡率(ProCESSのみ60日死亡率)に影響するかを検討した。臨床病型の頻度を6パターン作成し、それぞれのパターンでMonte Carlo simulationを10000回行い、各RCTにおける介入の有益性または有害性について評価した。28日死亡率や365日死亡率について臨床病型、治療内容を説明変数としてLogistic回帰分析を行った。またSOFA scoreやAPACHE-3、感染部位と臨床病型の関連も検証した。これにはKruskal-Wallis testおよびΧ2検定を使用した。

"結果"
SENECA derivation cohortには1309025人の患者が組み入れられ、感染症およびSepsis-3の条件を満たしたのは20189人であった。SENECA validation cohortでは、1119388人のうち43086人が組み入れられた。GenIMS cohortでは2320人のうち、583人が組み入れられた。3つのRCTでは4747人が該当した。
SENECA derivation cohortから4つの臨床病型(α、β、γ、δ)が導かれた。αは検査値異常が少なく、臓器障害の合併が少なかった。βは高齢で、慢性疾患を合併し、腎機能障害を伴う傾向があった。γは炎症反応が強く高熱があり、低アルブミン血症を伴っていた。δは血圧が低く、乳酸値が高値で、AST/ALTの高値を伴っていた。SENECA validation cohortやLatent class analysisでも同様の傾向であり、内的妥当性を確認できた。
4つの臨床病型は検査値および臨床経過との関連がみられた。検査値においては、IL-6, IL-10, TNFはγ、δで特に高値であった。腎機能障害はβ、δで多く、凝固異常はδで多かった。血管内皮障害はγで最も高かった。αで院内死亡率が最も低く、δの死亡率が高かった。ICU入室率はδで高かったが、人工呼吸日数と昇圧剤使用日数は一定した傾向はみられなかった。
過去のRCTにおいて、組み入れ患者に占める4つの臨床病型の頻度を変動させてシミュレーションを行うことで、結果へ影響することが示唆された。βやγの患者頻度の大幅な変化は結果に影響を与えなかったが、αとδの頻度が変化することで治療効果へ影響を与えた。ACCESSにおいてはδの頻度が増加するとエリトランが有害であるという結果がでる可能性が高まった。ProCESSにおいては、αが増加するとEGDTは有益に、δが増加するとEGDTは有害になる傾向が示唆された。
本研究で提唱された臨床病型は、APACHE3やSOFAといった従来から用いられてきた重症度単独で説明できるものではなかった。またδで腹腔内感染の頻度が多い傾向があるが、それぞれの臨床病型と感染部位との間には明らかな関連は指摘できなかった。

[Implication]
敗血症のデータベースから機械学習モデルを使用して敗血症を4つの臨床病型に分類することを行っている。それぞれの患者データは通常の急性期診療で得られるものばかりであり、ERなどでの診療の際に臨床病型を特定することができ、早期の治療介入や臨床試験への組み入れを検討できることが示唆される。
一方、そもそもの患者選択基準にSepsis-2または3を満たすことが入っているため、臓器障害を伴うことが患者組み入れの前提となっていて、今回のαに当たる患者や比較的軽症の患者は選択されにくくなるという選択バイアスが存在している。外的妥当性を評価したGenIMS cohortは、SENECA derivation cohortと比較してsample数が少なく、またアメリカ国内のコホートである。このため、本研究で提唱された臨床病型が持つ特徴が妥当なものであるか、まだ外的妥当性・一般化可能性は低い。今後、患者選択基準を感染症患者とした母集団での外部検証が必要である。また、これらの分類を使用することで患者の治療効果、臨床予後に改善をもたらすか検証を行っていくことが必要である。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科