脳梗塞発症後9時間までの潅流イメージングによる血栓溶解療法

[ Journal Title ]
Thrombolysis Guided by Perfusion Imaging up to 9 Hours after Onset of Stroke
Chest; N engl j med 380;19 nejm.org May 9, 2019

[論文の要約]
"背景"
4.5時間以内の経静脈的血栓溶解療法の有効性を示した研究の患者選択は単純CTをもとにしている。 灌流CTや灌流強調画像[PWI]-拡散強調画像[DWI]ミスマッチMRIは虚血になっているが梗塞が完成していない救済可能な脳組織の描出が可能である。外科的血栓除去術による再灌流療法はこの方法によって患者選択することで4.5時間を超えて有効性を示している。今回同モダリティを用いて患者選択を行い、発症4.5時間から9時間以内または起床時に症状を呈している患者に対して経静脈的血栓溶解療法での有効性を検討した。

"方法"
デザインは多施設二重盲検ランダム化比較第III相試験である。期間は2010年8月〜2018年6月に行われた。Inclusionは18歳以上の半球急性虚血性脳卒中を呈する患者で、登録前に優れた機能的状態を有していた(=modified Rankinスケール(mRS)<2)者、NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)が4〜26点の者、RAPID (research version)自動ソフトウェア(Stanford University and iSchemaView)を用いてMR-DWIで低灌流域を示した者であって、すなわち、ペナンブラが存在しており、梗塞が完成していないと考えられるものとした。
Exclusionは頭蓋内出血、NIHSS score < 4、試験チームにより血栓回収の方が良いと判断された場合mRS≧ 2、虚血core> 1/3 中大脳動脈(MCA)領域、妊婦、過去3カ月以内の脳卒中の既往のある者、脳出血、くも膜下出血、動静脈奇形動脈瘤、または脳腫瘍の既往または臨床症状のあるもの、過去72時間以内のグリコプロテインIIb-IIIa阻害剤の使用、発症経過時間以外の静脈血栓溶解療法の禁忌に適応するものとした。
介入の方法は脳卒中発症後4.5〜9.0時間または脳卒中症状で目が覚めた患者をcentralized websiteによって、アルテプラーゼ群とプラセボ群の2群に分配した。また発症から4〜6時間と6〜9時間、起床時脳卒中症状ありの層別化した。Primary Outcomeは、m Rankin スケールのスコアが 90 日の時点で 0 または 1 であることとした。(Primary Outcomeのリスク比は,ベースラインの年齢と臨床的重症度(NIHSS)で補正した。Secondary Outcome は発症から1.90日時点での mRSの改善、2.発症から90日時点でのmRS:0〜2への改善、3.t-PA使用後24時間再灌流した範囲が50%と90%以上のものと、4.神経機能の改善とした。
またSafety outcomesは1.介入後90日以内での死亡、2.介入後36時間以内の症候性頭蓋内出血の出現とした

"結果"
計画していた 310 例のうち、225 例が登録された時点で、先行試験のt-PA使用群に肯定的な結果が発表されたため、倫理委員会により試験は中止させられた。113 例がアルテプラーゼ群に、112 例がプラセボ群に無作為に割り付けられた。Primary Outcomeはアルテプラーゼ群の 40 例(35.4%)とプラセボ群の 33 例(29.5%)だった。(補正リスク比 1.44,95%信頼区間 [CI] 1.01〜2.06,P=0.04)。症候性脳出血はアルテプラーゼ群の 7 例(6.2%)とプラセボ群の 1 例(0.9%)に認めた(補正リスク比 7.22,95% CI 0.97〜53.5,P=0.05)。Secondary OutcomeであるmRSのスコア分布に関する分析では、90 日の時点での機能的改善に群間で有意差は認められなかった。

[Implication]
当研究より、Primary Outcomeとして、mRSのスコアが 90 日の時点で 0 または 1へ改善した症例のリスク比をベースラインの年齢と臨床的重症度(NIHSS)で補正した結果ではアルテプラーゼ群の 40 例(35.4%)、プラセボ群の 33 例(29.5%)とアルテプラーゼ群で有意に改善された。
内的妥当性としては、国際的多施設でよくデザインされたランダム化、二重盲検の比較試験であり、研究のための出資が政府機関であることからデータの妥当性は上がる。しかし研究に際し予定していたsample size より少数で切り上げられている点は問題である。
外的妥当性としては多施設のデータとしてトライアル参加者はアジア人も多く、人種の違いを考慮せずにデータとして参照できる。
今回のトライアルのsample sizeが少なく、主要評価項目の評価、脳出血の合併症の評価が困難である。これまでの4.5時間以上でのt-PAに関する研究では予後を改善させなかったが、今回の研究で有意差が得られた理由として考えられることは今までのトライアルと違い、RAPID画像判定システムを使用したことが考えられ、さらなる研究が期待される。
今回のトライアルの結果からは、直ちに臨床現場に還元し静脈血栓溶解療法の治療適応時間を4.5〜9.0時間へと延長することは早計と考えられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科