敗血症関連凝固異常症患者の死亡率に対する遺伝子組換え型ヒト可溶性トロンボモジュリンの効果 ーSCARLETランダム化比較試験ー

[Journal Title]
Effect of a Recombinant Human Soluble Thrombomodulin on Mortality in Patients With Sepsis-Associated Coagulopathy The SCARLET Randomized Clinical Trial; JAMA. Doi:10.1001/jama.2019.5358, Published online May 19, 2019

[背景]
生物学的経路で敗血症を標的にした数々の治療法が大規模ランダム化比較試験で検討されているが、死亡率に改善するものはまだない。遺伝子組換え型ヒト可溶性トロンボモジュリン(rhsTM;トロンボモジュリンα)であるART-123の敗血症に対する治療効果を検討した第2b相ランダム化比較試験の事後分析では、感染、少なくとも1つ以上の敗血症関連の心血管系・呼吸器系の臓器障害が存在する場合に、rhsTM投与と死亡率の低下が最も関連しうることを示唆した。今回の試験は、rhsTMが敗血症関連凝固異常症患者の28日死亡率を低下させることができるとの仮説を検討するために行われた。

[方法]
SCARLET(Sepsis Coagulapathy Asahi Recombinant LE Thrombomodulin)と名付けられたプラセボ対照二重盲検国際多施設ランダム化比較試験は、ヨーロッパ(イスラエルを含む)、北米、南アメリカ、アジア太平洋、ロシア及びその他の27カ国の319施設(159施設に登録あり)において、敗血症患者に対するrhsTM投与の28日死亡率に及ぼす効果をプラセボ投与と比較するために行われた第3相試験である。18歳以上で、既知の感染部位における細菌感染、SIRS(全身性炎症反応症候群)の基準を満たす患者が選択された。最初のINR測定と最初のrhsTMまたはプラセボ投与との間の最大時間を15時間としたが、試験実施中にプロトコールが修正され、40時間に延長した。選択された患者は1:1の比で、0.06mg/kg/d(最大用量6mg/d)のrhsTM、または同量のプラセボを6日連続で毎日1回投与するように無作為に割り当てられた。Primary Efficacy End Pointは、介入開始から28日後の全死亡率であり、Secondary Efficacy End Pointsは、3ヵ月後の全死亡率およびショック/人工呼吸器/透析フリーの生存日数で評価した28日までの臓器機能不全の治癒である。Primary Efficacy End Pointには、28日目までの有害事象および重大な出血事象が含まれ、またSecondary Efficacy End PointsはrhsTMに対する抗薬物抗体である。

[結果]
Primary Efficacy End Pointである28日全死亡率は、rhsTM群で395人の患者のうち106人(26.8%)に対してプラセボ群で405人のうち119人(29.4%)であった(P = .32、Cochran-Mantel-Haenszel検定)。絶対差は2.55%(95%CI, -3.68%~8.77%) 。またSecondary Efficacy End Pointsは報告されていない。
754人の患者(94.3%)が少なくとも1回以上の緊急治療を必要とする有害事象(rhsTM群が377人[95.2%]、プラセボ群が377人[93.3%])を経験し。rhsTMグループで23人の患者(5.8%)およびプラセボグループで16人の患者(4.0%)で重大な大出血事象が発生した。rhsTMに対する抗薬物抗体は報告されていない。

[Implication]
内的妥当性として、プラセボ対照二重盲検国際多施設ランダム化比較試験ではあるが、試験途中でプロトコールが修正され、介入までの許容時間が大幅に延長され、それによって、約20%の患者が介入を受ける時点でInclusion Criteriaを満たさないことになり、Primary Efficacy End Pointへ影響を与えた可能性がある。また、プラセボ群の死亡率が試験前のサンプル数計算に使用された仮定値(24%)よりも高く、実際のサンプルサイズがrhsTMの有効性を評価するに十分でなかった可能性がある。27カ国で319施設が試験に協力したが、実際に159施設でしか患者登録がなく、その中55施設では患者1人のみの登録となり、層別化が十分に行えなかった。論文発表時にSecondary Efficacy End Pointsに関するデータ公表されていない。さらに今回の試験設計に製薬会社が関わったため、試験の中立性及び客観性を損なう懸念もある。
敗血症関連凝固異常に対する治療が国によって認識が違い、施設間でも敗血症に対する治療水準が違う。また、現時点でrhsTMを臨床で使用しているのは日本のみであるところで、外的妥当性が影響される。
以上のことから、この試験ではrhsTMの有効性が証明されなかったが、妥当性が欠ける箇所も多いため、より厳格な試験設計を行った上で新たなトライアルを実施する必要がある。

post172.jpg


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科