喀血治療としての吸入トラネキサム酸 ランダム化比較試験

[ Journal Title ]
Inhaled Tranexamic Acid for Hemoptysis Treatment A Randomized Controlled Trial
Chest; Volume 154, Issue 6, December 2018, Pages 1379-1384

[論文の要約]
"背景"
喀血治療として、気管支動脈塞栓術や気管支鏡下止血術など効果的な手技はあるが、原疾患の治療以外の薬剤治療の効果は確立していない。トラネキサム酸全身投与は喀血量と喀血期間の減少に寄与する可能性はあるが、エビデンスはまちまちで強い推奨には至っていない。トラネキサム酸吸入療法はケースシリーズで喀血に対し有効な報告があるが、RCTでの評価はされていないため今回トラネキサム酸吸入療法が喀血に対し有効な止血術かのトライアルが行われた。
"方法"
デザインは前向きランダム化比較試験、二重盲検であり、ヘルシンキ宣言に法り事前にMeir Medical Center Institutional Review Boardの倫理承認をされている。期間は2012/1-2016/1でイスラエルのMeir Medical Centerで行われた。Inclusionは18歳から90歳、血行動態安定、喀血はいかなる原因も含まれ、抗凝固治療はクレキサンかヘパリンにスイッチされる。Exclusionは18歳未満、大量喀血(喀血量>200ml/24h)、呼吸または循環不安定、妊娠、腎不全(Cr>3mg/dlまたは腎代替療法を要する)、肝不全(Bil>2mg/dlまたはAST>正常上限値の3倍)、凝固障害(PT-INR>2)、トラネキサム酸への過敏性、直近のトラネキサム酸の治療歴とした。
介入の方法は24時間以内の喀血で入院した18歳以上の患者で上記inclusionとexclusion criteriaを満たしたものに院内薬剤部で同様のバイアルに入れてマスキングされた上でトラネキサム酸500mg/5ml ネブライザー1日3回の介入群と0.9%生理食塩水5ml ネブライザー 1日3回のプラセボ群にランダムに割り付けられた。各群で最大5日間投与とし、それ以前にも担当医判断で終了可能とした。止血困難例に対する追加治療は担当医判断で行われた。治療チームと患者には二重盲検化された。
喀血に対するトランネキサム酸吸入療法は今までRCTがないため、今回のサンプルサイズは施設の経験とSolomonovらによる結果( Respir Med. 2009;103(8): 1196-1200. )に基づき予想され、各グループ5日以内の止血がトラネキサム酸群で90%、生理食塩水群で50%とし、50名(25名ずつ)に設定された。途中で10%が脱落の可能性を考えて60名(30名ずつ)とした。OutcomeはPrimary Outcomeは「5日以内の喀血完全止血率」「毎日の喀血量の差」、Secondary Outcomeは「止血のため気管支鏡下止血術、動脈塞栓術、外科的止血術に至った率」「平均在院日数」とした。
"結果"
Primary outcomeの5日以内の喀血完全止血率は介入群 24名(96%) vs placebo群 11名(50%)、毎日の喀血量の差はDay2-5でトラネキサム酸群がプラセボ群と比較し有意に減少した。
Secondary outcomeでは止血のため気管支鏡下止血術、動脈塞栓術、外科的止血術に至った率は介入群0%、プラセボ群:18.2%、平均在院日数は介入群5.7日、プラセボ群:7.8日であり、治療関連合併症はいずれの群でもなく、follow up dataで30日後と1年後の死亡率と再発率が評価されたが、1年後の死亡率を除いて介入群での有意な低下を認めた。

[Implication]
内的妥当性として、もともとClinical trial government登録時に100人であったサンプルサイズが50名に削減され、その後介入群での明らかな十分な治療効果が判明したため中断されたことがレターに記されていたため解析者は盲検化されておらず情報バイアスがある。しかし、症例数が少ない中でfragility indexが6であることからトラネキサム酸の止血効果は期待できる。
外的妥当性としては単施設研究であること、本邦ではトラネキサム酸の吸入投与は認められていないこと、どの疾患で止血困難となり侵襲的手技が必要になったか明記されていないこと、プロトコールが記載されていないことから一般可能性は低くなるが、安価で施設を選ばず利用できる治療法であることは高く評価できる。
以上の結果からこの単一研究のみでトラネキサム酸吸入療法を標準治療とすることはできないが、副作用の報告もなく、止血効果も期待されるため、多施設でより大きな集団でのトライアルが望まれ、今後の治療方針に影響するようなエビデンスが出ることが期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科