初期波形ショックリズムの院外心肺停止で蘇生され、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)徴候のない患者に対して早期CAGを行う群と、神経学的所見が改善してからCAGを行う群で90日生存率に差が出るか

論文名:Coronary Angiography after Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation
J.S. Lemles et al. New England Journal of Medicine, 2019 March 18, PMID:30883057

解説:
初期波形ショックリズムの院外心停止で、自己心拍再開した患者の心電図波形で、STEMIが疑われる場合に早期CAGを行うことは生存率を上昇させることが知られている。 しかし、いくつかの観察研究において、初期波形ショックリズムの院外心停止蘇生後で、ST上昇を伴わない患者において、早期または遅れてCAGを行うとで死亡率に影響を与えるかどうかの報告はなされているが、一定の見解が得られていなかった。そこで本研究は蘇生後患者において早期CAG群と遅延CAG群に割り付けを行い、その生存率を比較した初めての前向き多施設共同RCTである。

方法:
2015年1月から2018年7月まで オランダの19の施設における観察者主導のopen-label RCTである。初期波形ショックリズムの院外心停止で蘇生された患者に対して救急外来にて心電図をとり、STEMIの徴候がないと判断された患者を割り付け後、2時間以内にCAGを行う群(早期CAG群)と神経学的所見が改善してからCAGを行う群(遅延CAG群)にコンピューターで1:1に割り付けをした。一次評価項目は90日生存率としてITT解析を行った。過去の観察研究を元に遅延CAG群での生存率を32%と予想し、40%の生存効果が見込まれるとして早期CAG群の生存率を45%と見積もり検出力85%とした。5%の両側有意水準でχ2検定を行い、10%の欠測があると予想してsample sizeを552人とした。途中でsample sizeを変更できるようにadaptive designとしたが中間解析では変更する必要はなかった。二次評価項目、サブグループ解析、感度分析などは事前に設定された。

結果:
組み入れ患者552人のうち、早期CAG群に273人、遅延CAG群に265人が割り付けられた(同意拒否がそれぞれ7人ずついたため除外された)。90日生存率は早期CAG群で64.5%、遅延CAG群で67.2%だった。(OR 0.89, 95%CI 0.62 to 1.27; P=0.51)

結論:
初期波形ショックリズムの院外心停止で蘇生後に心電図でST上昇を認めない患者において、早期にCAGを行っても遅れてCAGを行っても90日生存率に差はない。

考察:
これまでの先行研究は観察研究のみであり早期CAG群のほうが遅延CAG群に比べて生存率が改善することが予想されたが、本研究結果では差の検出はできなかった。組み入れ基準と除外基準に多くの制限があり、sample sizeが集まるまでに80%以上が除外されておりこの結果の一般化可能性は低いと考えられる。研究の性質上、open-labelのRCTとなってしまうことから治療者のバイアスは避け得ない。一次評価項目、感度分析、二次評価項目などで結果に矛盾がなく頑健性が強い。当初想定されていた生存率よりも結果的には両群共に大幅に生存率がよく、パワー不足が問題として挙げられることや、CAGを早期に行う群では目標とする体温管理までの達成時間が遅延CAG群よりも長いことで生存率が予定よりも低下した可能性があるなどいくつかの問題点が指摘されると思われるが、よくデザインされた前向きRCTであり、これまで一定の見解が得られていない観察研究のみの領域において生存者バイアスのないRCTが初めて行われたという点では注目するべき点も多いと考えられる。現在新たな2つのRCTが進行しており(ACCESS研究、DISCO研究)結果が待たれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科