せん妄治療にハロペリドールとジプラシドンはどちらが有用か?

Haloperidol and Ziprasidone for Treatment of Delirium in Critical Illness.
Timothy D Girard et al. The New England journal of medicine.
2018 12 27;379(26);2506-2516. doi: 10.1056/NEJMoa1808217. PMID:30346242

【Background】
せん妄は重症疾患があるときの最も一般的な急性脳機能不全の徴候であり、ICU入院中で機械換気を受けている患者の50-75%に影響する。またせん妄があると死亡率が上がり、機械換気の期間や病院滞在期間がより長くなり、コストも上がり、長期の認知機能障害のリスクとなる。これまで抗精神病薬がICU入院患者のせん妄期間を短縮させるか否かを検討した研究は複数あるが、小規模である、対照的な結果であるなど不明確な情報にとどまっていた。そこで今回の大規模臨床研究が施行された。

【Methods】
本研究は米国の16施設で2010年9月〜2018年3月まで施行された。
18歳以上の急性呼吸不全またはショックでせん妄(過活動型もしくは低活動型)のあるICU患者が組み入れられた。一方で除外基準として、ベースラインで重度の認知機能障害がある、妊娠中・授乳中などで副作用リスクが高い、torsades de pointesやQT延長の病歴、悪性症候群の病歴がある、今回使用のhaloperidolやziprasidoneにアレルギーがある、瀕死の状態である、などが設けられた。
インフォームドコンセント取得時点でせん妄がない場合は研究員が1日2回、せん妄が出現するまで最大で5日間患者を評価した。インフォームドコンセント取得時点または取得後5日間にせん妄が出現した場合でかつ補正QT間隔が550msec未満の場合はControl群・haloperidol群・ziprasidone群に1:1:1に割り付けられ(computer-generated, block randomisation)、層別化は各施設ごとになされた。また研究員・臨床医・患者・患者家族はいずれも盲検化された。(試験薬とplaceboは共に色がなく同一のバックで運ばれた)
初回投与量は70歳未満はいずれの群も0.5ml, 70歳以上は0.25mlで、以後12時間ごと(10:00, 22:00)に投与された。2回目以降の投与量については、せん妄がある場合(CAM-ICU陽性)は最大量まで2倍ずつ増量して投与され、逆にせん妄がない場合(CAM-ICU陰性)は最小量まで1/2倍ずつ減量して投与された。試験期間中は補正QT間隔や錐体外路症状(Modified Simpson-Angus Scaleを使用)がモニタリングされ、もしtorsades de pointesや悪性症候群などが起きた場合は中止された。Primary Outcomeとしてはせん妄・昏睡のない生存日数(14日間の介入期間のうち)が設けられ、Secondary Outcomeとしては、せん妄の持続期間、機械換気から離脱するまでの時間、ICU最終退室までの時間、30日または90日生存率などが、さらにSafety Outcomeとしてtosades de pointes、悪性症候群の発生率などが設けられた。
またサンプルサイズについては、2日間の差を見込んでpower=80%で561人が設定され、ITT解析がなされた。またPrimary OutcomeではBonferroni補正がなされた。

【Results】
20914人のうち、最終的に566人がランダム化され、184人がplacebo群に、192人がhaloperidol群に、190人がziprasidone群に割り付けられた。Baseline Characteristicsではいずれの項目も差はなく、566人のうち89%が低活動型せん妄、11%が過活動型せん妄であった。また試験薬またはplaceboへの暴露期間の中央値は4日間(四分位範囲: 3-7)であった。Primary Outcomeである、14日間の介入期間中のせん妄・昏睡のない生存日数は、placebo群で8.5(95%confidence interval [CI], 5.6-9.9)、haloperidol群で7.9(95%CI, 4.4-9.6)、ziprasidone群で8.7(95%CI, 5.9-10.0)であり(p=0.26 for overall effect across trial group)、placeboと比較してhaloperidol・ziprasidoneの使用は有意差を認めなかった(オッズ比: 0.88[95% CI, 0.64-1.21], 1.04[95%CI, 0.73-1.48])。Secondary Outcomeや錐体外路症状の頻度についても同様にグループ間で有意差は認めなかった。

【Conclusions】
HaloperidolまたはZiprasidoneは、急性呼吸不全またはショックのあるICU患者のせん妄期間を有意には変えない。

【Strength / Weakness】
Strength:
[internal validity] 大規模・多施設・ランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験であることなどが挙げられる。
Weakness:
[internal validity] ランダム化までに除外された人数が多い、 2日間の差を検出するようpowerが設定されているためそれ以下の差は検出できない、などが挙げられる。
[external validity] 多施設だが米国のみであること、クエチアピンなど今回の試験薬以外の効果は不明であること、日本など必ずしもziprasidoneは使用できない施設がある、過活動型せん妄が多い集団に対しての効果は不明であることなどが挙げられる。

【Implication】
せん妄を発症した急性呼吸不全またはショックのあるICU患者に対してhaloperidolまたはziprasidoneを投与すべきかの結論は出せない。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科