選択的消化管除菌、選択的口腔咽頭除菌、クロルヘキシジン口腔洗浄は、人工呼吸器患者の血流感染を減らすか?

[Title]
Decontamination strategies and bloodstream infections with antibiotic-resistant microorganisms in ventilated patients.
JAMA. 2018;320(20):2087-2098. doi:10.1001/jama.2018.13765. Wittekamp BH, et al.

[Introduction]
これまで、人工呼吸器管理下の患者における選択的口腔咽頭除菌(SOD)、選択的消化管除菌(SDD)はオランダにおいて死亡率及び血流感染の減少に寄与することが示されてきた。しかし、オランダ以外の国でのデータがないことからこのプラクティスの外的妥当性が未だに示されていないのが現状である。また、クロルヘキシジン(CHX)2%による口腔内洗浄については、人工呼吸器関連肺炎の減少に寄与すると示されている一方で、死亡率は上昇するというメタアナリシスの結果もあり、一定した見解は得られていない。

[Research Question]
中等度〜高度の耐性菌保持率を有するICUにおけるCHX 2%口腔内洗浄、SOD、SDDの使用は、多剤耐性グラム陰性菌 (MDR-GNB)血流感染発生率、及び28日死亡率を減らせるか?

[Method]
本研究は2013年12月〜2017年5月にわたって、ベルギー、スペイン、ポルトガル、イタリア、スロベニア、イギリスの13のICUで行われたクラスターランダム化クロスオーバー試験であり、介入は各施設でクロスオーバーをしている。ICUの組み入れ基準は、Extended-spectrum βlactamase (ESBL) 産生腸内細菌科が血流感染の5%以上を占めていることであり、24時間以上の人工呼吸器管理が予想される患者を対象とした。除外基準は妊婦、使用薬剤に対するアレルギー、18歳未満である。全施設で最初の6か月間をベースライン期間として2%CHX全身洗浄と手指衛生を実施し、これは研究の全期間を通じて継続した。ベースライン期間後は6か月間を1タームとし、1カ月のwashout/in 期間をおいて、SOD、SDD、CHX口腔洗浄の3つの介入を順番に各タームで施行した。各介入の順番はコンピュータで無作為に決定された。SODとSDDではコリスチン、トブラマイシン、ナイスタチンを使用し、前者では口腔内ペーストとして、後者では口腔内ペーストと胃管を通しての投与を行った。CHX口腔洗浄は当初2%の濃度を使用していたが、期間中に10%の患者に口腔粘膜障害が出現したため、2015年3月より1%に変更となった。主要評価項目は助成金の影響によりICUにおけるMDR-GNB血流感染発生率と設定したが、サンプルサイズ計算は副次評価項目の28日死亡率を基に計算した。先行研究よりベースライン群の28日死亡率を27.5%、10%の相対減少を臨床的有意差とし、サンプル数は10,800人と計算された。しかし研究終了後に、検出力80%ではなく、20%で計算していたという間違いがあり、実際想定していたサンプル数よりも不足していたことが発覚した。

[Result]
全体で8665人の患者が解析の対象となり (median age, 64.1歳; 男性5561人[64.2%])、ベースライン群、CHX群、SOD群、SDD群として解析対象となった人数はそれぞれ2251、2108、2224、2082人であった。ICUにおけるMDR-GNB発生率はベースライン群、CHX群、SOD群、SDD群でそれぞれ2.1%、1.8%、1.5%、1.2%であり、ベースラインと比較した場合のAdjusted hazard ratios はCHX群、SOD群、SDD群でそれぞれ1.13 (95%CI, 0.68-1.88)、0.89 (95%CI, 0.55-1.45)、0.70 (95%CI, 0.43-1.14)という結果であった。28日時点での死亡率はベースライン群、CHX群、SOD群、SDD群でそれぞれ31.9%、32.9%、32.4%、34.1% であり、ベースラインと比較した場合のAdjusted odds ratios はCHX群、SOD群、SDD群でそれぞれ1.07 (95%CI, 0.86-1.32)、1.05 (95%CI,
0.85-1.29)、1.03 (95%CI, 0.80-1.32)であった。

[Conclusion]
中等度〜高度の耐性菌保持率を有するICUにおいてCHX 2%口腔内洗浄、SOD、SDDの使用は、多剤耐性グラム陰性菌 (MDR-GNB)血流感染発生率、及び28日死亡率の減少とは関連しなかった。

[Implication]
当研究は内的妥当性の問題を多く抱えたスタディである。特に、サンプルサイズを低く見積もってしまったことにより十分な検出力がなく確からしい結論を導くことが難しい研究であると言える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科