PIPC/TAZのカルバペネム温存療法としてのESBL産生Ecoli又はK.pneumonia菌血症に対する標的治療での治療効果は?

[Title]
Effect of Piperacillin-Tazobactam vs Meropenem on 30-Day Mortality for Patients with E.coli or Klebsiella pneumoniae Blood Stream Infection and Ceftriaxone Resistance: A Randomised Clinical Trial.
JAMA 2018 Sep 11; 320(10):984-994. doi:10.1001/jama.2018.12163. Harrins PNA. et al.

[Introduction]
ESBL産生菌による健康被害は国際的課題である。米国では年間感染者数26000名、死亡者数1700名が報告されており、市中・医療介護機関いずれも増加傾向にある。ESBL産生菌の重症感染症に対する標準治療としてカルバペネムが使用されてきたが、現在多用に伴う耐性菌の出現が懸念されている。耐性菌出現を抑える目的でこれまでPIPC/TAZなどβラクタム/βラクタム阻害剤(BLBLI)のカルバペネム温存療法としての効果が検証されてきたが、無作為化比較試験での非劣性は未だ証明されていない。

[Research Question]
CTRX耐性E.coli又はK.pneumoniae菌血症に対する標的治療において、PIPC/TAZはMEPMに非劣性か?

[Method]
2014年2月〜2017年7月に9カ国(オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、イタリア、シンガポール、トルコ、サウジアラビア、レバノン、南アフリカ)27施設で行われた国際多施設非劣性オープンラベル無作為化比較試験。検体採取から72時間以内に1本以上の血液培養でCTRX又はCTX耐性かつPIPC及びMEPM感受性のE.coli又はK.pneumoniaeが検出された成人患者(21歳≧;シンガポールは18歳≧)を対象とし、標的治療としてPIPC/TAZ 4.5g q6h 群とMPEM 1g q8h 群に1: 1で割り付けた。主要評価項目は30日後全死亡率であり、サンプル数は先行研究(Clin Infect Dis. 2012;54(2):167-174. )よりPIPC/TAZ群の死亡率=14%と推定、非劣性マージン5%, 片側α=0.025, 1-β=0.8として454名と計算された。中間解析を3回行いp <0.001の優越性が見られる場合を中止基準とした。

[Result]
3回目の中間解析でp=0.004であり研究継続によるPIPC/TAZの非劣性証明は困難と判断され、予定サンプル数到達前に中止となった。30日後死亡率はPIPC/TAZ群23/187(12.3%) MEPM群7/191(3.7%),リスク差 8.6% (97.5%CI:-∞ to14.5%), P値 0.9であり、PIPC/TAZの非劣性は証明されなかった。

[Implication]
本研究はPIPC/TAZのESBL産生菌による菌血症の標的治療におけるカルバペネム温存療法としての効果を比較した初の大規模RCTである。結果として予定患者数に到達する前に中止となったネガティブスタディであり、主要、副次評価項目いずれも非劣性は証明されなかった。比較的軽症の患者に対する内的、外的妥当性も保たれた試験である。制限として経験的治療は医師の判断に任されている,オープンラベル, 全てがESBL産生菌ではない(86%), AmpC過剰産生が10%などはあるものの、大勢には影響しないと考えられる。ESBL産生菌に対する標的治療にはPIPC/TAZではなくMEPMを選択する事が妥当である。今後は当研究を踏まえたシステマティックレビューや他の新規BLBLIの標的治療および経験的治療の研究が期待される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科