重症頭部外傷に対して早期の予防的低体温管理は長期神経予後を改善させるか?

[Title]
Effect of Early Sustained Prophylactic Hypothermia on Neurologic Outcomes Among Patients With Severe Traumatic Brain Injury The POLAR Randomized Clinical Trial
JAMA. 2018;320(21):2211-2220. doi:10.1001/jama.2018.17075
D. James Cooper, MD1,2; Alistair D. Nichol, MB, PhD1,2,3,4,5; Michael Bailey, PhD1; et al

[Introduction]
重症頭部外傷(Severe Traumatic Brain Injury; severe TBI)は、約半数の患者で死亡または重篤な後遺症を患い、治療学として重要なだけでなく社会経済学的な面からも重要である。脳への障害は外傷自体による1次脳損傷と、直後から惹起される炎症や虚血に伴う生化学的反応による2次性脳損傷がある。低体温療法は、一部の観察研究や基礎研究で活性酸素酸性の抑制や代謝の低下を通じて2次性脳損傷を軽減する可能性が指摘されている。しかし、これまでに行われたTBIへの低体温療法についての大規模RCTでは、有効性は示せなかった。Meta-analysisでも統一された見解がなく、受傷後可及的速やかに32-35℃で48時間以上継続させ、0.25℃/hr以下の速度で復温させた場合に予後を改善させる可能性が示唆されていた。今回著者たちは、過去の研究のLimitationを克服し、さらにMeta-analysisで指摘された事項を遵守した方法による予防的低体温療法が、6ヶ月後の神経学的予後を改善させるかどうかを検討した。

[Methods]
欧州、オセアニア、中東を含む6カ国の5つのParamedicと14の救命センターが参加した多施設RCT。病院前または救急外来でスクリーニングを行いGCS 4-8点で気道確保が必要だと判断された成人患者が組み入れられた。ショックや制御不能な出血、抗凝固療法を受けている、受傷後3時間以内に低体温療法導入ができないなどの患者が除外された。サンプルサイズ計算として、ベースラインの神経学的予後不良を50%とし、介入により15%改善すると仮定とした。検出力を82%、α=5%と設定した上で、ドロップアウトなどを加味して500人と計算した。主要評価項目は受傷後6ヶ月後の神経学的予後良好(Glasgow Outcome Scale score 5-8点で定義)の割合とした。低体温療法群は、冷却輸液による導入の後、体表冷却装置を用いた33-35℃での体温維持を少なくとも72時間継続された。ICPのモニタリングを行いつつ0.25℃/h以下の速度で復温し必要に応じて7日間は37℃で管理された。コントロール群では、同様に必要に応じて7日間は体表冷却装置を用いて最長7日間37℃で管理された。

[Results]
511人が登録され、231人(45%)が病院外で登録された。266人が低体温療法群へ割り付けられた。両群間での集団特性には大差はなかった。平均年齢は34.5歳でGCS scoreの中央値が6であった。受傷からランダム化までの時間の中央値は1.9時間であった。
Primary outcomeである受傷後GOS-E scoreの神経学的予後良好割合は, 有意な差はなかった. Secondary outcomeでは、死亡率や目標体温までの到達時間、人工呼吸器管理時間、ICU滞在日数などには有意差は見られなかった。有害事象では、両群間で頭蓋内出血の増悪割合では優位な差は認められなかったが、Per-protocol解析にて、低体温稜堡群で肺炎の増加が有意に増加した。また、低体温療法群で高用量昇圧剤の使用日数、ICPモニター日数が増加する傾向にあった。

[Discussion]
これまでにも、重症頭部外傷に対する低体温療法についての大規模RCTはあったが、いずれも否定的な結果であった。本研究は、これまでの試験のLimitationを克服し、十分な検出力を持って行われた。結果としては、有効性を示すものではなく、先行研究とも一致している。これらの結果からは、重症頭部外傷に対してはもはや低体温療法は行うべきではないと考える。もともと、我々の施設では低体温療法は施行しておらず、この研究で我々の診療が変わることはないだろう。

post136.jpg


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科