MRIにおいてDWIとFLAIRのミスマッチを用いた方法により、発症時間不明の脳梗塞に対して、alteplase投与により機能予後が改善するか。

MRI-Guided Thrombolysis for Stroke with Unknown Time of Onset
N Engl J Med. 2018 Aug 16;379(7):611-622 PMID: 29766770

【Background】
現在の急性期脳梗塞のガイドラインでのは血栓溶解療法の適応は発症から4.5時間以内である。しかし、14-27%の脳梗塞は起床時に気づかれ、発症時間不明である。その中には発症まもなく、血栓溶解療法の適応となる症例もあり、MRIで拡散強調画像(DWI)では高信号であるが、FLAIRでは信号変化がない所見(DWI-FLAIR mismatch)は発症から4.5時間以内であることを示唆すると言われている。

【Research Question】
MRIにおいてDWIとFLAIRのミスマッチを用いた方法により、発症時間不明の脳梗塞に対して、alteplase投与により機能予後が改善するか。

【Methods】
本研究は、公的資金から公的資金から援助をうけ、EU8か国, 70施設で行われた多施設共同二重盲検プラセボコントロール研究である。18-80歳の脳梗塞の臨床症状を呈し、発症時間不明で最終健在時刻から4.5時間以上経過しているがMRIでDWI-FLAIR mismatchを認め、時間以外のalteplase禁忌がない患者を対象とした。患者はalteplase投与群とplacebo群へ割り付けられた。有効性主要評価項目は90日後の良好な機能予後(modified Rankin Scale (mRS) 0-1)とした。また安全性主要評価項目は90日後の死亡と90日後のmRS 4-6とされた。

【Results】
当初のsample sizeは740人と計算されたが、資金不足により中間解析前に503人で早期中止された。有効性主要評価項目に関しては、alteplase群 53.3%に対しplacebo群は41.8%であり、優位にalteplase群で90日後の機能予後が良好であった。(ARR 12.5%, , OR 1.61, 95% CI 1.09-2.36, p=0.02)。一方で、有害事象である死亡は、alteplase群では10/251人 (4.1%), placebo群で3/244人 (1.2%)で有意差はなかったが(OR 3.38, 95%CI 0.92-12.52, P=0.07)、alteplase群で死亡を増加させている可能性があった。

【Conclusion& Implication】
本研究では、発症時間不明だが、DWI-FLAIR Mismatchの所見を有する脳梗塞患者に対してalteplaseを投与することで、90日後の機能予後を改善する可能性が報告された。
DWI-FLAIR mismatchがない等の理由で除外された症例が多く、また血栓回収療法を予定されている人、MCA 1/3以上の広汎な脳梗塞、NIHSS>25の重症な脳梗塞患者も対象外であり、臨床の現場で対象となる患者は少なく、外的妥当性としては低いと考えられる。また、alteplase投与群で死亡率が高い傾向にあり、早期打ち切りになったことから、安全性の評価は十分に行えていない。本研究の最大の問題点は早期試験中止により治療効果を過大評価している可能性がある点である。最悪のシナリオとして神経予後を改善せず、死亡だけ増やすということも想定され、本研究を根拠にWake-up strokeに対してtPAを使用するのは早計と考えられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科