NIHSSが低く日常生活への機能障害が明らかでない急性虚血性脳卒中患者へのalteplase投与は有効か?

Effect of Alteplase vs Aspirin on Functional Outcome for Patients With Acute Ischemic Stroke and Minor Nondisabling Neurologic Deficits. The PRISMS Randomized Clinical Trial. Pooja, et al.
JAMA. 2018;320(2):156-166

【Introduction】
これまでの研究から急性虚血性脳卒中患者で、National Institute of Health Stroke Scale (NIHSS)スコアが低くalteplaseを使用しなかった30%が、発作の90日後に機能障害があるというデータが示されている。しかし、軽症の急性虚血性脳卒中に対するalteplase投与の有効性に関するRCTはない。

【Question】
NIHSSが低く日常生活への機能障害が明らかでない急性虚血性脳卒中患者へのalteplase投与は有効か。

【Methods and Conclusion】
本研究は、アメリカの75施設で行われた多施設double-blind RCTで第III相試験である。急性虚血性脳卒中と診断された18歳以上、診断時のNIHSS 0-5点、日常生活への機能障害が明らかでない患者が対象とされた。機能障害は日常生活(入浴・歩行・トイレ・洗顔・食事)または仕事復帰に支障が出る障害と定義された。発作以前に障害(modified Rankin Scale: mRSスコア2-6点)がある患者、嚥下障害、頭蓋内出血、その他alteplase静注が禁忌の疾患がある患者は除外された。対象者はalteplase静注+placebo内服群とplacebo静注+aspirin内服群に割り付けられ、primary outcomeは発症から90日の時点でのmRSスコアが0-1点である機能良好な患者数とされた。primary outcomeは年齢・発症からの時間・初診時のNIHSSスコアで調整されており、posthoc analysisである。
当初sample sizeは948人とされたが、スポンサーによる金銭的な理由により早期打ち切りが行われた結果、313人での解析となった。
結果としてalteplase群は122人(78.2%)、aspirin群は128人(81.5%)が発症から90日の時点のmRSスコア0-1点で機能良好であり、両群に差は認められなかった(adjusted absolute risk difference, −1.1%; 95% CI, −9.4% to 7.3%)。

【Discussion and Implication】
本研究はこれまでにない重要な臨床疑問に対する研究であるが、スポンサーの一方的な中止により予定サンプル数には遠く及ばずに群間差の証明に失敗したため、臨床疑問の検証は不十分である。データを振り返ると、対象患者の定義を明確にしたことで、組み入れられた患者の機能が他の研究より良好であり、選択的により軽症の患者が選ばれている。さらに障害の定義が明確だが主観的であるため臨床医による選択バイアスが影響した可能性が考えられる。このような軽症患者群において差を出すということはこれまでの研究とは異なり、alteplaseが失った機能を改善させるのではなく、機能が増悪することを予防する効果をみることに等しい。そのため両群で差をみることは難しく、デザインに限界があると考えられる。
本研究の内的妥当性としては、多施設ランダム化比較試験でdouble-blind・concealment・masking・ITT解析されており、baseline characteristicsは両群で同等であった。一方で早期打ち切りによるsample size不足でprimary outcomeが補正されている点に関しては議論の余地がある。
外的妥当性としては、最終的に脳虚血発作の診断ではなかった患者が13%いる点があげられる。
本研究からは、確定的結論を導くことはできずNIHSSが低く日常生活への機能障害が明らかでない患者へのalteplase投与は有効かどうかの結論は出せない。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科